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「赤毛のアン」の3人のアン

ステージの上に珠玉の人間模様が繰り広げられれば、
たとえ始まって5分10分でも、人は涙を流すことができる。
8/29(土)、30(日)の二日間、東京フォーラムCホールにて、昼夜公演が行われている
国連クラシックライブ協会による音楽劇「赤毛のアン」。
昨夜の夜公演を観て、私は本当に、序盤でぽろぽろ泣いた。
畑仕事の手伝いができる「男の子」を養子にしようと思っていたマシュー・マリラの老兄妹のもとに、
間違って「女の子」のアンが送られてくる。
自分の身の上を、アンがまるで人ごとのように、
淡々と、ちょっと斜に構えて話し出す。
生まれて4ヶ月で孤児となり、
あちこちのやっかいになりながら最後は孤児院にたどり着いたアン。
「それで、みんなはあんたにやさしくしてくれたのかね?」
マリラの問いかけに、アンは必死に答える。
「みんな、私にやさしくしようとしてくれていたのはわかったの。
 でも、飲んだくれの夫がいたり、子供が8人もいたりしたら、
 親切にしようと思っても、そうできないことがあるでしょう?
 みんな、とっても貧しかったし・・・」
つらいつらい日々を送りながらも、誰も恨むまいとしているたった11歳の女の子。
この日の子役・山田理紗は、
元宝塚・往年の大スター榛名由梨のマリラ、元劇団四季・ミュージカルの重鎮浜畑賢吉を相手に、
すばらしい演技をした。
ちょっと早口でりくつっぽいアンの性格をきちんと出しながらも、
滑舌なめらかでセリフがよく届く。
絶妙の間と緩急をつけたセリフまわし、そしてトーンの落差を自在に操り、
観客の心に涙と笑いの花を咲かせた。
彼女と一緒に想像し、
彼女と一緒に夢を見て、
彼女と一緒にグリーンゲイブルズに自分の家を持てる幸せを噛み締められた。
彼女のこれからに期待したい。
もう一人、
成人になった岡本茜もプロの発声・プロの踊りで他と格の違いを見せつけた。
歌声の美しさは、
「オペラ座の怪人」のクリスチーヌが似合いそう。
いつかぜひやってもらいたい。
澄み渡る高音は、力強さを失うことがない。
背景に教会やマリア像が浮かび上がってくるほど。
スウェーデン系の血を引くということもあってか、
究極の小顔に大きな瞳、長い手足という恵まれたプロポーションを生かし、
大きく見せる踊りにはコケティッシュな魅力もある。
しかし最も感銘を受けたのは「朗読」。
芝居の中で、アンがパーティーで詩を朗読する場面があるのだが、
その朗読が秀逸だった。
はっきりとした中にも奥行きがある発声。
母親が子どもに読み聞かせるような愛情が感じられて、
私たちもパーティーの一員となって詩の世界を堪能し、
終わると自然と拍手が湧き起こった。
一つひとつの言葉をていねいに扱う語り方は、
演技をする上での基本的な資質として、これから大きな武器になっていくと思う。
少女のアンは、豊城礼。
初の大役ということで、かなり緊張していたか、
早口すぎてセリフの意味がしっかり入ってこないきらいはあったが、
イチゴ水とワインを取り違えたり、
コンプレックスの赤毛を黒く染めようとしたり、
足の骨を折ったり川に落ちたり、と失敗ばかりのアンを
現代っ子らしく演じて好感が持てた。
彼女の出色はパーティーの場面で出てくるバレエ。
すでにアンは成人しているので、アンとしてではないのだが、
ソリスト・天羽祐香とともに、今村昌子バレエスタジオの実力を披露。
昨年のバレエのシーンに比べて
今年のバレエは非常にレベルが高かった。
制作発表の時、「芸の幅を広げたくてこの劇に挑戦した」と言っていた豊城。
たくさん経験を積み、
自信をもってバレエのように大きな演技ができる日を楽しみにしたい。
劇全体としては、
ダンスはよくそろっていたが、アンサンブルの声量が乏しく、
歌詞が聞き取れない歌がいくつかあったのが非常に残念。
それでも最後に全員でのチャールストンが始まると、
みんなの笑顔に幸せな気持ちが膨らんだ。
今日も、すでに昼公演が始まっている。
夜公演は6時半から。
埼玉、神奈川でも引き続き公演がある。
*写真は、8/28の制作発表の時のもので、9/29(土)夜公演の配役。
赤毛のお下げの3人(子役・少女・成人)がアン、
鮮やかなドレスの3人はアンの親友・ダイアナ(やはり子役・少女・成人)
成人アンの岡本茜、マシュウの浜畑、マリラの榛名は
東京の全公演に出演する。

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