エッセイストとして、
スポーツや芸術、エンタメなどについて
幅広く論評をしてきた虫明亜呂無氏が書いた短編小説集。
最初この本を読んだとき、
「これは小説? それともノンフィクション?」
と、戸惑う自分がいた。
冒頭の作品「海の中道」は、
福岡国際マラソンの実況中継のような感じで始まる。
コースの説明、参加選手の人数、天候・気温、
5キロ地点を通過したときのラップ、
先頭集団のかけひき、
ついていけぬ者の見せる一瞬のゆがんだ表情…。
あー、これはノンフィクションだ、と思った途端、
「私がコーチをしている氏家茂は…」と、
オリンピック選手候補を育成している指導者が語り手とわかり、
そして話は
その男の日常へ、そして過去へと飛ぶ。
マラソン、サッカー、野球、ボート、そして競馬。
ありとあらゆるスポーツに造詣の深い虫明氏の
細密な描写が冴える。
そして、
あるときはアスリート本人が主人公となって
スポーツに向き合う不安と高揚とを語り、
あるときはそれを眺める観客の内面と
その目にうつるスポーツ選手たちとの
奇妙な邂逅の意味を探る。
私はかつて熊川哲也のバレエを見て本当に感激し、
その気持ちを形にしたくて小説を書いた。
バレエを見ている観客の話である。
そこには、舞台の上で繰り広げられるバレエも描写する。
やっぱり、共通点があるんだな、と思った。
芸術と自己とが一体化する瞬間というものを、
作品に吸い込まれながらも自我が無限大に膨らむ体験を、
彼も、私もしている。
そこを文章で表したい、と思っている。
彼の作品の中に、
きっと私が獲得すべき何かがあるはずだ。
それを見つけ、
さらに自分らしさを生み出していけたらいいと思う。
まだまだ虫明作品初心者の私。
これからもいろいろ読んでいきたいと思っている。
「シャガールの馬」収録作品一覧
「海の中道」(マラソン)
「連翹(れんぎょう)の街」(サッカー)
「黄色いシャツを着た男」(プロ野球・引退のとき)
「タンギーの蝶」(プロ野球)
「アイヴィーの城」(テニス・引退のとき)
「ふりむけば砂漠」(陸上・短距離)
「シャガールの馬」(競馬)
「ぺけレットの夏」(ボート)
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