トヨタの闇
今日、一つの判決が出た。
2002年、月に144時間もの残業をしていたトヨタ自動車社員、
内野健一さん(当時30歳)が職場で倒れ死亡したことにより、
妻の博子さんが労災を申請したが却下された件に対し、
その取り消しを求めた裁判で、
名古屋地方裁判所が原告である博子さんの言い分を認めたのである。
(直近1ヶ月の残業時間を労働基準監督署は45時間しか認めなかったところ、
裁判所は106時間45分と認定した)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20071130i206.htm
内野さんが「職場で倒れた」のは、午前4時30分である。
自動車工場の中で、午前4時30分に働いていたのである。
早番は6:25~15:15、遅番は16:10~深夜25:00の二交代制をとっている。
深夜の1時まで働くのが「残業でない」というのもびっくりだが、
その「定時」を3時間以上も越えた午前4時30分、
内野さんは働いていた。
倒れた内野さんを見つけた人もまた、働いていた。
こうした内野さんの働き方を、妻博子さんが語っているのが
『トヨタの闇~利益2兆円の「犠牲」になる人々』(林克明・渡邉正裕著)である。
他にもトヨタやその傘下の系列会社における
「ジャスト・イン・タイム」(在庫を抱えないように製品を完成させる方法)が
いかに職員に加重を強いているか、
社員と会社が一体になって企業を盛り上げる昔ながらの体質が、
異議を唱えたり権利を主張したりできない雰囲気を作っていることとか、
海外で「反トヨタキャンペーン」が広がっているのに、
日本国内ではそれに対する報道が少ないのはなぜか、
「トヨタは優良」というイメージだが、
リコールの台数やリコール車の改善措置がどの程度進んでいるかについて数字をつきつめていくと、
(たくさん売れているだけに)
あの大問題になった三菱に次いでトヨタは群を抜いている、
などといった話がいろいろ書いてある。
大手広告主である大企業トヨタには、マスコミも大いに「配慮」している点も
手厳しく書いている。
実際、
林氏のこの本は、大手新聞社などから事実上宣伝を断られているし、
他のトヨタ関連の記事の企画も、ほとんど掲載を見送られたという。
私は車に乗らないし、自動車についてあまり詳しくないので
書いてあることのすべてをしっかりとは把握できなかった。
しかし、
誰が何といっても博子さんの気持ちだけはわかる。
「夫は残業して朝帰ってくる。
本当は深夜に帰ってきて、
私や子どもが朝食をとる時間はぐっすり寝ていなくてはならないのに、
帰りが朝になって、私たちと食事をする。
一緒に食べられてうれしい反面、とても心配。
そして彼は、疲れていてほとんど食べられない」
子どもが生まれる前は、何とか一緒にご飯を食べようと
夜遅くまで(深夜2時ごろまでも)寝ないで待っていたという博子さん。
子どもが泣いて夫の眠りを妨げないようにと、
家を「封印」して外に出る博子さん。
健一さんが倒れた日も、家の電話を消音にしていたため、
彼女への連絡がつかず、臨終に間に合わなかったという。
少子化だ、何だと騒いでいるけれど、
こんな話を聞いてしまうと、誰も結婚に夢なんか持てなくなる。
よく芸能人が「仕事が忙しくてすれ違い生活で」と離婚の理由を話すけど、
この生活を続けていた2人は
本当に愛し合っていたんだろうと思う。
とにかく、
名古屋地裁で原告勝訴の判決が下ってよかった。
これから先、まだ続くのかもしれないけれど、
「トヨタの城下町」で署名一つ集めるのも大変だった中、
「事実」を認めてもらえたことだけでも本当によかった。
人が、人間らしく暮らせる社会を、
日本は、それも「世界に冠たる」トヨタという「優良」企業の、それも正社員ですら、
獲得できていないということに、
愕然とする1冊である。
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