中国の危ない食品
これは日本人が書いた本ではなく、中国の人が書いたものです。
著者の周さんは、食品や食物のエキスパートでもなんでもありませんが、
「自分の親族や知人にどんどん病人が増えた」ことがきっかけで
いろいろと学び、調べ、そしてこの本を書いたといいます。
いわゆる「ギョーザ事件」より前に出た本です。
「ダンボール肉まん」や「冷凍ホウレンソウ」の事件のことは載っています。
日本で報道される事件ばかりでなく、
中国の「食」は、私たちが想像するよりずっと深刻な状態にあるようです。
いわゆる「ギョーザ事件」では今、
そのあまりの毒物混入の量の多さから
「意図的に入れたとしか思えない」という意見に傾きつつありますが、
(そして私は専門家でも何でもありませんが)
この本を読んでいると、
私たちが思う「添加物の入れ方」という常識を超えた世界があるとしか思えません。
「こんなことしていたら、生態系に影響どころじゃなくて、
中国人が滅亡しちゃうんじゃないの??」
現に、子宮や卵巣・精子といった「産む」に関連する臓器の異常が急増しています。
いくら人口が多い中国といっても、
こういうダメージは重大問題なのではないでしょうか。
日本でも、環境ホルモンとか、同様のことが叫ばれた時期があります。
きっと今だって、全面解決はしていないだろうけれど、
ここまで野放図になることはありません。
その違いは、どこにあるのでしょうか?
私は、「情報公開がされていないから」だと思っていました。
国民に、これらの薬品の危険性が十分に伝わっていないから
「知らずに」使っているのではないか。
被害も「知らない」から、「やめよう」と思うきっかけがないのではないか?
しかし問題はそれだけではないようです。
著者の周さんは、
中国がずっとひきずってきた「専制」という政治体系に問題があるといいます。
「お上のいうまま」に動くしか、生きる道がなかった国民。
その中に生れてしまった「絶望」という観点から説明するのです。曰く、
―今日の中国の「有毒食品」騒ぎは、
「民主的な法制に欠けた経済改革による果てしない民族の災難」にある。
―一党専制下の私有制を実施しながら、政治体制の改革を先延ばしにしている状態は、
実際的には「独裁統治と私有制が並列していた封建時代に逆戻りしたのと変わりない。
―この種の腐敗が上から下へ、社会の各種業界に浸透し、
疫病のように中国の空気を毒し、道徳を喪失させ、事の是非がわからないようになっている。
人々は悪いことをするのに恥じることなく、
むしろ悪いことをして金を儲ける才覚とチャンスに恵まれないことを恨む。
―中国人は貧富、(思想の)右左、善悪、正邪の号令をされるたびに、
全員がその号令に従って動き、その結果、
人間としての「個」(根っこ)を失ってしまった。
そして結局、
中国人は誰をも信じず、社会を信じず、国を信じず、明日を信じず、の状態なのだ。
「明日を信じず」という言葉に、真実があるのではないでしょうか。
たとえばもっとも光り輝いている青春時代にありながら、
少女売春などを繰り返す女の子たちがいます。
「もっと自分を大切にしなさい」などとお説教をしても、彼女たちには通じません。
だって、
「大切にする」ような自分を感じたことがないのだから。
自分に「未来」など、あると思えないから。
だから刹那的な行動に走るのです。
コロンバイン高校の事件から引きも切らず起こる、アメリカの学校での銃乱射事件。
自らも自殺する犯人たちも同じです。
どうせ自分は死ぬのです。
だから周りのことなど、どうでもいいのです。
イラクでは、女性の自爆テロが増えているといいます。
チャドルの下に爆薬を抱きやすい、というのも一因だけれど、
今の社会の中に、女性が希望をもって生きられないというのがもっとも大きいという報道がありました。
周さんは書きます。
「たとえどのような悪質な事件がおころうが、人々の反応は、
まず驚き、次に怒り、しかし仕方ないと考え、ついに無感覚と絶望感へと転化していく。
…想像していただきたい。
無感覚と絶望に左右される一つの社会集団の、その出口、その未来が
どのようなものになるのかを」
最後に、この本の中で引用されていたカール・マルクスの言葉を。
「適当な利潤があれば資本(投資)は大胆になる。
資本は、10%の利潤があれば、いたるところで投資される。
20%なら暗躍してくる、
50%なら危険を冒す、
100%になると一切の法律を無視する、
300%となれば、たとえ絞首刑になろうと、犯罪を犯す…」
中国で非常に問題となっている「赤身化剤」を利用すると、豚肉の利益率は275%だという。
排水溝のたまった浮遊物や残飯から作るという、ちょっと考えられないような「地溝油」も然り。
すでに「利益率300%」の域に達しようかという中国の状態を、
著者は本気で憂えています。
もちろん、彼は「当局」がよく思わない作家の一人。
天安門事件の時に投獄されたりしています。
ロシアで暗殺された女性ジャーナリストのアンナ・ポリトフスカヤ氏についても
「同じ覚悟、同じ心境」と語っています。
明日の自分に希望を思い描けない社会では、
人はせめて『今』を楽しむしかありません。
あとは野となれ山となれ、
それは「中国」だから、ではなく、誰にでも、どの国にでも起こりうることなのです。
そして、
私たちが「安いもの」だけを追求していけば、
生産者はフェアトレードを支えていけなくなり、疲弊し、倒れ、
結局安全な食べ物はこの世からなくなっていく、ということも
肝に銘じていかねばならないと再認識。
この本を読んで、
億劫がってしばらくお休みしていた「食の安全」を掲げた宅配を
また利用するようになりました。
反省。
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