小さな花が咲いた日
石川結貴(いしかわ・ゆうき)は、現代家族のリアルな問題を豊富な取材網をもとに描き出す
ノンフィクション・ライター。
つい最近も、40代50代の男女の迷いや決断の数々について
「オトナの迷路」というシリーズを『サンデー毎日』に連載していた。
その石川が、今回は「小説」という形態にこだわった。
取材の過程で出合った12の人生を、
いつもと違った観点から描き出している。
私がもっとも好きな短編は『団塊アパート』。
気がつけば孫の世話に振り回されている律子にも、「全共闘の青春」があった。
今も思い出せばナイフで胸を裂かれるほどの痛み。
それとともに、官能のアドレナリンもまた、溢れ出す。
そんな女の一面を、懺悔の念とともに思い出す一瞬。
鮮やかである。
冒頭の『包丁』もいい。
最近は最近は「どうやったら妻に捨てられずに退職後を生きられるか」、
とにかく「愛していると口で言う」とか妻に迎合するノウハウ花盛りだが、
昔かたぎの男と女が長く連れ添って分かり合うとはどういうことか、
自分の心から湧き出る愛情表現とはどんなものか、
原点に還ることのできる小品だ。
ほかにも『弁当』『スイッチ』など、
12のうちの誰でもどれかには「これ、まるっきり私のことじゃない!」と思うような、
共感できる話が満載。
専業主婦の日常なんて、ドラマになりにくいものだけれど、
人は心の中にそれぞれブラックホールを抱えているということが実感できる。
現代の家族のつらい問題をとらえながら、
「人を救うのは、人」という温かい視点を失わないことで
読みやすく、読後の後味もよい1冊となっている。
今の生活に漠然と虚しさを感じる人、
もっと違う人生もあったんじゃないか、と立ち止まることの多くなった人、
わけもなく、涙があふれる自分をどうすることもできない人。
これは、実話をもとにしています。
みんな、あなたと同じようにがんばっている。
読んだ後、「私も、がんばってきたなー」と
自分をほめてあげたくなるかもしれません。
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