平成関東大震災
「いつか来るとは知っていたが、
今日来るとは思わなかった」という副題がついている。
2006年の9月から11月にかけて、「週刊現代」に連載されたフィクションだ。
阪神・淡路大震災をはじめ、これまでに起きた大地震の被害状況や
その結果や原因の科学的考察、経済的影響など
お役所やシンクタンク・研究所の類がはじき出した「数字」をプロットに
それを一つの小説として著した
いわばシミュレーション・ストーリーである。
「西谷九太郎」という男が東京都庁のエレベーターの中で被災、
東京都墨田区京島の自宅に歩いて帰る。
マイホームは去年建てたばかりで30年ローンが残っている。
妻と二人の子どもとは、
災害時の集合場所や連絡手段など、何も話し合っていない。
「それより、今夜の接待が~!」なんて考えちゃうヤツである。
「ま、大体の流れは読む前からわかってるし。
すらすら読めそうだから、ま、一度読んでみるか」
……そんな軽い気持ちで手にとったのだけれど……。
不覚にも、途中から涙、涙、涙。
熱いものが体中からこみ上げてくる。
西谷氏のフラストレーションも絶望も迷いも感動も、
気がつけばすべて自分のものになっている。
著者は「亡国のイージス」の福井晴敏。
さすが、なのである。
防災感覚ゼロの西谷につきまとって
防災ウンチクをいちいち披露する「甲斐」という男も
最初は、
「説明しよう!」の男の子みたいな、
ただの便利な解説キャラにすぎないと思っていたが、
最後の最後に、深いストーリーが明らかになって
体の奥を貫くような余韻を残していく。
新書版であっという間に読める。
書きおろしのコラムは、ナナメ読みでOK。
(「数字」より「人生」にひかれる人間の性質が、ここにも表れる)
読み終わって、
そういえば、離れて暮らし始めた娘との連絡手段を
まったく考えてなかったな、と気がついた。
感動して、役に立つ本です。
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