文藝春秋 2010年 04月号 [雑誌]
1冊1500円の月刊誌(「ダンスマガジン」)はそう高いと思わないのに、
1冊750円の月刊誌(「文藝春秋」)を高いと思うのはなぜ。
写真かな~。
でも、今月(四月号)は絶対の「買い!」です。
私は【松本清張生誕100年特集「昭和史発掘」を再発掘する】に
ひかれて買ったんですが、
他の記事がどれもこれも面白くて、本当に充実の1冊です。
グラビアは倉本総と尾上菊之助。
「富良野塾」最後の公演を控えた倉本の姿が写し出されます。
菊之助は歌舞伎の舞台となった地を訪れ、その作品にも触れ、で
充実の記事。(文=長谷部浩)。
バンクーバーオリンピックでメダルを獲った浅田真央と高橋大輔の記事も。
真央ちゃんは山田コーチが語る真央ちゃん。
真央ちゃんを暖かく見守りながらも、
「彼女のコーチはタラソワですから」と
自分に言い聞かせるように連発するところに
山田コーチのプライドと寂しさとが垣間見えます。
大ちゃんのほうは、スポーツライターの松原孝臣が
長光コーチとの二人三脚の日々を追います。
高橋にとって、
「バンクーバーのキス&クライではモロゾフとツーショット」
というイメージを捨て一から立て直さなければならなかった、
そこがある意味ではケガより大変だった、というくだりは、
非常に興味深いものでした。
ピリリと効いた文章としては、
塩野七生の「密約に思う」。
「一度失った領土を戦争以外の方法で取り戻すというのは大変なこと」で
密約を結んだ当事者の苦悩と覚悟と胆力を称えつつ、
それを「80年代になって以後もずっとウソをつきつづけたのは別の問題」と、
近年の政治家たちの「自己保身」を糾弾することも忘れない。
うすうす気付きながらも「臭いものにフタ」してきたメディアや国民にも
容赦はしない。
「北方四島がいまだに還ってこないのは、密約づくりができなかったから」かも、
という皮肉りようもまた、塩野らしい。
そしてもっとも楽しく読んだのが
【「事業家」竜馬こそ私の手本】という、ソフトバンク社長・孫正義の竜馬論。
今の大河ドラマへののめりこみようは尋常ではなく、
日曜どころか「土曜のあたりからムネがドキドキ」して
ツイッターに
「もうすぐぜよ! 皆、準備はよいかーっ」などとつぶやいてしまう、とか、
第一話しょっぱな、岩崎弥太郎が竜馬のことを聞かれ
「大っ嫌いだった、あんな男は」と叫ぶのを見て
「もう、涙が止まらなくなりました。それほどまでに岩崎は竜馬が好きだったんだ、
竜馬に憧れ、竜馬になりたくて…(後略)」と書く孫さんが
いかに竜馬に心酔しているか。
今までに5回、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」を全巻精読したという孫さん。
それはすべて人生の岐路にあったとき、という。
「竜馬だったらどうするか?」
これを考え抜いて決断してきた、といいます。
特定の歴史上の人物を自分のモデルとして成功した事業家は多いですし、
よく聞く話ですが、
この孫さんの手記は、まず文章がいい。
簡潔でリズムがあり、過不足なく、理論とエピソードのバランスにたけている。
まったく飽きることなく最後まで読み通せます。
難しいことは一切書いていないけれど、
彼が何を目指して事業を展開しているかがよく理解できます。
「武市は起業家、竜馬は事業家」
「二人のすごい日本人、信長と竜馬の違い」などなど、
スパッと書いていくところが小気味いい。
1983年に病気に倒れ「余命あと5年」と言われたときに、
竜馬が死ぬ5年前、竜馬はまだ土佐藩を脱藩したばかりだったことを思い、
まだまだやれることはたくさんあると意を決して
病床で数千冊の本を読んだ、というくだりは圧巻。
どこまでも前へ前へと進むエネルギーには頭が下がります。
竜馬のいいところをガンガン書いている孫さん。
「そうなりたい」とあこがれるだけでなく、
近づくために努力を惜しまない。
そこが凡人と違うところだなー、と思いました。
孫さんの立身出世譚ではありますが、
それをおしつけがましくなく、身近に感じさせ、
面白く読ませるというこの文章力に脱帽です。
「(ドラマだけではわからない)本当の岩崎弥太郎伝」
(成田誠一・三菱史アナリスト)もあるので、
併せて読むと面白い。
香川さんの顔がアタマに浮かびます。
*松本清張の特集については、また後日。
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