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「古事記」に見るオンナ心

昨日の続きです。
兄貴の釣り針をなくして困っていた弟に
「海の神様んとこに行くとよろし」と声をかけた老人は
その後のこともちゃんと言い置いてくれます。
「しっかり編んだ小船に乗って流されるままに海を行けば、
 ウロコ屋根を葺いた宮に行き着く。
 門を入ったら、かたわらに井戸があるから、
 その脇の木に登って座っていなされ。
 海の神様の娘が来て、よしなに扱ってくれるじゃろ」
弟、言うとおりにしたら、言うとおりのことがおこりました。
井戸の脇の木に登っていると、
トヨタマビメに使える女召使いが、
きれいな入れ物を持って井戸までやって来たのです。
さてその女、
水を汲もうと井戸の中を見ると、
中の水に何かの影が映りました。
「何かしら?」と仰ぎ見ると、
男がいるじゃありませんか!
(あーら、イケメン!)
でも、何でこんなところにいるの?
・・・といぶかる隙も与えず、
弟くん、その女の子に
「あのー、水が欲しいんですが」と声をかけた。
彼女、すぐさま水を汲んで、持ってきた器に入れて差し出すと、
イケメンは「水がほしい」と言っていたのに、その水を飲まず、
首にかけていた玉飾りから一つ玉をはずすと、
いったん口に含んでからその水の中に、
「ぺっ」と吐き出した!
いとアヤシ。
もちろん、召使いはその玉を除けようとするんだけど、
これが器にひっついて、取れない!
(何よ~、これ??)
仕方がないので、玉がくっついたまま、
トヨタマビメのところまで持って行きました。
当然、トヨタマもいぶかしがる。
「ねえ、外に誰かいたの?」
かくかくしかじか、といきさつを聞くや、
おヒメさん、のこのこでかけていっちゃう。
(イ・ケ・メ・ン!)
異国の人ですからねー。
人間って、自分にはないものに憧れます。
エキゾチックなオトコは、木の上に腰掛けて、ヒメにウィンク。
ヒメ、いちころです。
「ねえねえ、お父さま~。あのね、お外にね、
 カッコイイオトコの人がいるの」
どりゃどりゃ、と自分の目でたしかめてみると
「おおー! この人は、天皇の子ども、王子様じゃないか!」
大喜びで家に引き入れ、
アシカの毛皮を何枚も敷いた上に座らせて、
結納の品々を机の上にガンガンそろえて、
すーぐに娘をオトコとくっつけてしまいました。
かーなり居心地がよかったのか、
弟、兄貴の釣り針のことも忘れて3年暮らしましたとさ。
ある日、突然そのこと思い出して、
深~いタメ息ついてしょげてるのを見て、
ヒメはとっても心配になった。
「ねえ、お父様。今まで3年間、一度も嘆いたこともなかったのに、
 あんな大きなため息ついて。どうしたのかしら?」
しゅうと殿、ムコ殿に尋ねます。
「何か心配事でもあるんですか? というか、
 そもそも、あなたがここにいらした理由って何かあるんですか?」
それでムコ殿、かくかくしかじか。
しゅうとは海の魚という魚を集めて情報収集。
すると
「タイのやつ、このごろノドに何かひっかかってモノが食べにくいって
 こぼしてましたけど」という者が!
「それだ!」
しゅうと殿、タイから釣り針を取り出してきれいに洗うと、
ムコ殿に言いました。
「兄上には、そのまま返しちゃダメですよ。返すときは後ろ手で、
 『憂鬱針、怒りんぼ針、貧乏針、アホ針』って言いながら渡しなさい。
つまり、呪いをかけちゃったのよね。
その上、
「兄上が川上に田んぼ作ったらあなたは川下に作りなさい。
 私は水を意のままにできるから、あなたに有利になるように動きましょう。
 それを恨んで攻めてきたらしめたもの、
 こっちには潮の満ち干きをコントロールできる玉だってあるんだ」
家に戻った弟は、どんどん豊かになり、
兄は戦いにも敗れ、とうとう「お前に仕えることにする」と降参しました。
山彦=ヤマト
海彦=ハヤト(薩摩隼人)
海のことを熟知して権力を持っていた薩摩隼人を、
ヤマトの王は、琉球とか、そういう海の民を味方につけて
征服していったっていうことなんでしょうかね。
・・・・・・・
さて、
ここからが悲しい物語。
トヨタマは、妊娠しました。
「この子はハーフだから、
 私の実家(海の中)で産んではいけないと思って」と
山幸彦のもとへとやってきます。
そして臨月。
波打ち際に萱をふいて産屋を作ったけど、急ごしらえで間に合わない。
「みんな子どもを産むときは、先祖返りするっていいます。
 お願いですから、私が子どもを産むところ、見ないでね」
(なんでそんなこと言うんだろう?)
山幸彦、やっぱりのぞいてしまう。すると・・・
トヨタマはでっかいワニになってクネクネうねっていたのでした!
見ちゃった男は逃げ出した。
見られた女は・・・。
 うちはづかしとおもほして
 すなはちその御子を生み置きて
「私は、実家から通ってこようと思っていたのですが、
 私の本当の姿を見られてしまっては、もう恥ずかしくて」と
泣く泣く子どもだけを置いて実家の海に帰っていきました。
でも子どものことが心配で、妹のタマヨリヒメを乳母にします。
(ちょっとヘン。姉がワニなら妹もワニじゃない?)
産んだ子どもの名前はウガヤフキアエズ。
まだ萱の小屋ができあがらないうちに生まれた子どもっていう意味です。
この子、
最終的には乳母で叔母さんのタマヨリと結婚しちゃうんだよ。
お父さん、それでいいのかね?
いいんです。
ウガヤフキアエズはハーフですから。
海の者の血を引く同志、きっと通じ合うものがあったんでしょう。
それにしても
山幸彦、「君の事はわすれないよ」っていう歌を歌ってるんだけど、
それだったら、別れなきゃいいのに。
事情があったんだね、きっと。
二人は愛し合っていたけど、
血統とか、けっこう重要な問題だったんでしょうかね。
トヨタマは、身を引くしか子どもを守れなかったのかもね。
いろいろ考えてしまいました。
古事記って、おもしろいです。

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