今、日本経済新聞の最終面で、映画監督の新藤兼人氏が、『私の履歴書』を連載しています。
現在90歳を越えた新藤監督の若かりし日の魂のおののきが、
手にとるようにわかる素晴らしい文章なので、
ぜひたくさんの人の目に触れてほしいと思います。
その新藤監督が30年前、「私家版」と銘打って作った、溝口健二についてのルポルタージュ映画が、「ある映画監督の生涯」です。
溝口健二と仕事をしたスタッフや俳優たちを中心に、
39人のインタビューで溝口健二の生涯を綴っています。(近代映画協会製作・ATG配給)
これを見てから『私の履歴書』を読むと、イメージがますますふくらんで来ます。
溝口健二氏の内弟子になってシナリオとは、監督とは、を求め続けた新藤氏の、
溝口氏へのオマージュと、同業者としての覚めた視線による真実の凝視とが
映像を熱くもし、引き締めもしています。
圧巻は田中絹代。
溝口監督との仲を聞かれ、「(このインタビューが)いい機会になりました」と、
真正面から答えています。
「私と溝口監督は、映画という仕事の上では完全に夫婦です」という言葉から始まって、
どんどん心の奥の叫びが沸きあがってくる。
すごい。
新藤監督と音羽信子との間柄も重なって、今観ると、また違う感慨があります。
当時のことを思い出しながら熱く語るつくり手たちの証言は、
どれも溝口組の「演劇のような真剣勝負」としての映画作りを浮き彫りにさせます。
この気迫が、名作を生んだんだと確信しました。
特に、「雨月物語」の最後のシーンに賭ける田中絹代の心構え、
撮り終えた時の、森雅之の心境、溝口の表情。
映画に賭ける人々の裏側は、残ったフィルムとはまた別の感動を私たちに与えてくれます。
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