昨日、渋谷のル・シネマで「日本発見シリーズ東京都」の上映と、
作品の監督・カメラマンをトークゲストに迎えてのお話がありました。
東京国際映画祭の中の「映画が見た東京」という企画ものの一環です。
この「日本発見シリーズ」というのは、岩波映画がテレビの草創期に
46都道府県(1962年なので、沖縄は復帰前)全部について作られた記録映画です。
それまで、民放のテレビ番組といえば娯楽中心だったのを、
マジメなものを作ろうという機運があり、始められたシリーズ。
スタッフもそしてカネを出したスポンサーも、新しい分野への強い理想と情熱を抱き、
非常に力の入った番組だったということです。
その「情熱」が、時として制作サイドとスポンサーサイドの思惑のずれを生み出し、
「東京都」の回は、当初土本典昭監督が撮ったのですが、お蔵入りとなってしまいます。
実際に放映されたのは、その後に指名された各務洋一監督の作品の方。
今回は、土本版、各務版の2作品を一挙に見る、またとないチャンスなのです!
・・・などということは、この日初めて知りました。
単に、自分が生まれた頃の東京を見てみたいという動機でチケットをとった私は、
ティーチインがあることも知らず会場に来たのです。
「土本監督の大ファン」という石坂健治氏(東京国際映画祭「アジアの風」プログラミング・ディレクター)を司会に、
土本監督、奥村佑治カメラマン、そしてたまたま観にいらした各務監督も交えてのお話は
「東京都」の製作秘話だけにとどまらず、
「記録映画とは」「映画作りとは」「2007年の今、同じように東京を撮るとしたら」にまで話が及び
とても深く有意義な時間を過ごせました。
せっかくの貴重なお話、
ブログに載せることについて、関係者の方の了解を得られたので、
何回かに分け、少し詳しく書きたいと思います。
土本監督が「東京」と出会ったのは小学校3年生の時。
公務員だった父親の転勤で名古屋から東京・麹町に越してきたそうです。
方言のことでからかわれるなど、「東京に拒否された」という第一印象は大きく、
どこかで常に「東京」への疎外感・反感を抱いてきた、とのこと。
そんな土本監督の作った「東京都」には、「人」がよく出てきます。
集団就職で上野に着いた中卒の少年少女、
東京の胃袋を支える食堂の昼食前、大量の仕込みをする料理人、
交通量が少なくなる深夜、空が白み始めるまで地下鉄工事をする人、
はたまた芸能人(ジェリー藤尾や坂本九)のステージにむらがり、
テープを投げ、握手を求め、その名前を叫び続ける若者たち、などなど。
東京に勉強をしに出てきた学生たちも映っています。
文化服飾学院で実習にいそしむ人たちも。
「地方の8割にはこの学校の系列校があるけれど、それでも彼らは東京に出てくる」
東京に憧れ、東京にしかないものを求めてやってくる地方の人たちの思いも
そこには滲み出ています。
でも、
食堂のウェイトレスたちに対するインタビューは印象的。
昼前から夜の10時頃まで、ほとんど12時間勤務だといいます。
「家に帰ったら、お風呂に入るのが精一杯。洗濯しなくちゃならないし」
「ラジオだけでも聞こうと思うけど、なかなかね。世の中のことは何も知らない」
「びっくりするほど、楽しむ時間が全然ない」
空から見た東京、というよりは、地面がめりめり盛り上がってくるような、
「できあがった」東京ではなく「増殖する」東京のような、
衝撃的な記録映画でした。
最初から最後まで、BGMはJazz、Jazz、Jazz。
当時としてはもっとも最先端な音楽だったと思いますが、
今聞いてもモダン。
そのせいか、作品全体からも時代を越えて訴えかけるものが強い感じがしました。
対して、各務版。
その半分以上は同じ映像です。
でも、どこかあっさりしている。
恨み節のようなところはなくて、バランスよく現状を紹介しています。
最初の場面は「東京見物」のために東京駅に降り立った家族の映像。
彼らと一緒に東京をめぐろうかという構成です。
観光バスは官庁街を通って「宮城」へ。
「宮城(きゅうじょう)」とは、皇居のあるところを指します。
現在は使いませんよね、このコトバ。この頃は当たり前だったみたい。
「ボクは東京生まれです。終戦の時は15歳でした。
この映画を作る時、私が一番描きたかったのは、復興です。
ここまで東京が復興したことが、とてもうれしかった。
今の東京の変わりようは、ちょっとここまではやりすぎかな、とも思いますけど・・・」と各務監督。
東京生まれの各務監督が「東京見物」を下敷きにし、
そうでない土本監督が、東京で生活する人を中心にすえる、とは、
面白いものだな、と感じました。
明日は、
「記録映画」についてのお話を。
それにしても、
東京オリンピックを目前に控えた東京の交通渋滞はものすごい。
これについては、
「ドキュメント路上」という映画を見たので、それについてのレビューのときに書きます。
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