本木雅弘/シコふんじゃった。
「本日(ほんじつ)医科大学」――これだけでも、十分笑える映画です。
周防正行監督の弱小相撲部物語(1992)。
遊び呆けて落としそうになった単位を
「相撲部に入れば合格させてやる」という言葉にのって入ったオトコ・本木雅弘が、
ホンキで相撲に目覚めるまでを、
ただ相撲部をつぶしたくない一心で留年し続けるオトコ・竹中直人や
何かに誘われたのは初めてという気の弱い太ったオトコ・田口正浩などを中心に描く。
「相撲」を笑いのタネにしながら、「相撲」に魅せられた人を描くことによって、
観た人すべてを「相撲好き」にしてしまう映画だ。
公開した頃、「シコふんじゃった」とほとんど同じ状態であるということで、
東大相撲部が取材されていた番組があった。
かつて六大学の相撲横綱だったという顧問の先生は、ほんと、劇中の顧問役・柄本明そっくりで、
びっくりした。
この映画が日本アカデミー賞各賞を総なめにしたとき、
多くの映画人からは「たしかに面白い。でも、これが日本映画の最高峰?」
という声が聞かれた。
「これ以上の映画がなかったことは認める。つまり『不作』の年だったというだけでは?」
「最高」というには、小粒だというのだ。
たしかにスケールはテレビドラマ的かもしれない。
けれど、見る人を幸せにする力はものすごい。
あれからずい分経つけれど、何度見ても笑ってしまう。
笑いのツボをはずさない。
それでいて、大まじめなシーンも大事にする。
そのギャップと切替わりの鮮やかさが気持ちのいいリズムを作り出している。
喜劇というものは、本来大仰なカッコをつけるものではない。
「バッカだなあ」と笑いころげているうちに、
気がつくとじーんとしみる。
喜劇の王道をいっている証拠である。
本番に弱くて試合で勝ったことがない留年キャプテン・竹中直人が
「潜在意識に語りかけるCD」を必死に聴く場面がある。
「あなたの、いちばんキモチのイイことを、思い出してください」
この映画は、
私にとって「キモチのイイ」映画の一つである。
自分が解放されていく。
観た後、シアワセになれる映画なのだ。
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