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「それでもボクはやってない」


それでもボクはやってない スタンダード・エディション(DVD) ◆20%OFF!
こわい映画である。
何もしていないのに、拘留される。取り調べられる。悪者扱いされる。
私たちが当たり前に持っている自由に生きる権利をいきなり剥奪される。
家に帰る自由。
好きなところで寝る自由。
一人になる自由。
好きな時間に起きる自由。
話す自由。
寝転ぶ自由。
何も悪いことなど、していないのに!
「あ、ごめんごめん、勘違いだった」で一日か二日で返してくれれば、
まだいい。
それにしたって主人公は就職面接の日だったんだから、その一日で人生を棒に振ったかも。
そのカンチガイによって、親の死に目に会えなかったりしたら、
誰だって一生ケイサツを恨むだろう。
ところが、
主人公は3ヶ月警察暮らし。
窓のない、知らない人と一緒の鉄格子の中で。
検察庁での取調べで警察から外に出るときは、しゃべることさえ禁じられている。
まだ、罪が確定したわけでもないのに。
3ヵ月後、ようやく保釈された時、母親がつぶやく。
「裁判なんて、悪い人が裁かれるところだと思ってた。
 お金で保釈なんて、おかしいと・・・」
保釈金200万円。大金をかき集めてでも、息子に「自由」をあげたかった母親。
主人公の友人役・山本耕史がいい味を出している。
主人公と同じくフリーターの、軽~く生きてます、的な青年が、
友人の無罪を信じて熱く行動する。
法律にも詳しくなる。
「あいつは絶対やってない!」と信じてくれる友人がいることのありがたさが身にしみる。
弁護に立つ役所広司も適役。
裁判や、それに関わる人々の心理を冷静にわかりやすく市井の人々に説く。
なぜあんなに裁判官は疑り深いのか。
どうしてこういう問答を重ねていくのか。その作戦のねらいは??
裁判に関わるなんて経験、一生に一度あるかないかの私たちにとって、
裁判や法律について、こういう「翻訳」をしてくれる専門家がいると、頼もしいなあ、と思う。
弁護士の話、というと、どうしても「熱血正義漢」の血走った顔が浮かぶものだが、
役所の淡々とした演技の中に、
裁判とか公正といったものの真実と現状、そして限界が、
おのずと浮き出てくる。
警察や検察を、安易な悪者に仕立てていないところが、
「冤罪事件」の真のおそろしさをかえって強く感じさせる。
悪人は、一人も出てこない。
いるとしたら、今もつかまっていない痴漢の真犯人だけ。
「正しいことをしていれば、大丈夫」なのか?
自分が痴漢の被害者だったら、
自分が警察官だったら、
自分が裁判官だったら、
自分が弁護士だったら、
彼が「やってない」と確信できるだろうか。
「やってる」「やってない」は、自分が一番よく知っているのに、
正解は他人が持っている。
そういう社会に、私たちは生きているのだ。
「Shall We ダンス!?」の後、まったく音沙汰のなかった周防正行監督が
満を持して放った映画は、
最後の最後まで目の離せない、スリリングで骨太の秀作だった。
寡作の人を、あなどってはいけない。

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