SUKIYAKI WESTERN ジャンゴ スタンダード・エディション DVD
2007年、三池崇史監督は日本の名だたる若手俳優を使いに使って、
一本の「和製マカロニ・ウェスタン」その名も「スキヤキ・ウェスタン」を作り、
ヴェネツィア映画祭に乗り込んだ。
それも、全編英語。
日本の俳優が英語を話す、西部劇、である。
ヴェネツィア映画祭では賞こそ取り逃がしたものの、
上映後は拍手が5分間も鳴り止まなかったという。
しかし。
日本では酷評が続いた。
入りも、悪かった。
「なんで、日本人が英語なの?」
「ふざけてんの?」
良くて「壮大なおアソビ」、これが全般的な評価であった。
ただ、
一部の評論家からは
「これがわからないヤツは・・・」といった、絶賛も聞かれたのもたしか。
ワタクシ、本日、初めて全編を拝見させていただきました。
おもしろい!
映画館に観に行かず、ほんとに後悔。
サイコーにクール、サイコーに考え抜かれた映画であった!
故・淀川長治氏が、最晩年に黒澤明監督についてのインタビューを受け、
「黒澤映画には、映画の言語でできている。だから、世界で受ける。
日本語で作られていても、日本のことを語っていても、
その作り方は、世界の映画の共通語。だから、世界中の人が理解する」と語っている。
そこが、「日本の小津」に対する「世界のクロサワ」たるゆえんなのだ、と。
「ジャンゴ」を見ながら、
私は淀川さんの言葉を思い出していた。
人物造形が、まさに「世界の映画」なのだ。
源氏の残党、平家の残党が出てきたってなんだって、
これはマカロニ・ウェスタンの系譜につながる正統派の作品である。
佐藤浩市扮する平家の「清盛」が平家物語の冒頭を読む。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」
そして、続ける。
「これからは、シェイクスピアだ、『薔薇戦争』だ、ヘンリー6世だ!
『薔薇戦争』では、赤バラが勝つんだぞ!
これからはオレのことを『ヘンリー』と呼べ!”」
・・・なんだなんだ? この芸術の香りの高さは????
佐藤浩市、シェイクスピア役者のごとく、「ヘンリー6世」のセリフを撒き散らす!
深い、深すぎる。この話。
日本の運動会が紅白で争うようになったその由来の一つが、源平合戦であることはご存知?
「白」は源氏、「赤」は平家の旗印。
だからこの映画でも、義経(伊勢谷友介)は白をまとい、清盛の陣地は赤の襖絵。
「『薔薇戦争』では、赤バラが勝つんだ!」と檄を飛ばす清盛、
「シェイクスピアくらい読んでおけ!」という清盛、
その清盛が、容赦なくテキを殺していくその荒くれのテンションに
私はかつて子ども時代に幾多の衝撃とともに垣間見た「マカロニ・ウェスタン」を体感するのだ。
シェリフ役で出てくる香川照之は、洋ものの舞台にはつきものの「狂言回し」である。
映画「ロード・オブ・ザ・リング」のスメアゴルだと思えばいい。
コウモリであり、ずるがしこく、心の中にある二面性を観客に見せ、
とるに足りない役と見せかけ、実は最後の最後まで話のカギを握る男。
源氏の「義経」を演じる伊勢谷は汗などかかないクールで切れまくる男を好演。
歌舞伎役者かと思わせる美しい面立ちの上、
他の役者が血まみれ・泥まみれなのに、彼はまったく汚れない。
一人だけ日本刀をあやつり(その殺陣も見事)、「白」を際立たせる。
対する平家の「清盛」・佐藤浩市はどこまでもワイルド。
悪役の上に3つくらい「悪」をつけたい徹底振りだ。
こっけいなほどに自らをデフォルメする佐藤は、実はかなりのマカロニ通だとのこと。
その片腕の「重盛」役で、今、人気沸騰の堺雅人も出ている。
相変わらず、視線と口元の笑みで100万語を話す役者だ。
中盤までをひっぱる運命の女「静」は木村佳乃。
今まで見たどんな木村よりすばらしい。
彼女は顔立ちから日本的で端正な役柄に多く配役されるが、
こうしたエネルギッシュかつ不幸で怨念まみれの寡黙な役が似合うと知る。
流れ者で、源平の争いに巻き込まれる主役・伊藤英明もよい。
セリフがちょっと不鮮明なところが気にかかったが、
終盤からは本領発揮、過去を背負ったガンマンの悲哀と強さを瞳と背中で表してgood。
しかし、
何といっても、桃井かおりである。
途中までほとんど目立たない彼女が、中盤から後、ぜーんぶ持って行く。
さすが、ハリウッド女優、
その実力はハンパではない。
ハリウッドという意味では、石橋貴明もあなどれない。
やはり、買われている役者には、何かがあるのだ。
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ネタバレしては面白さも半減なので、
これ以上物語について語るのはやめよう。
こんなにわくわく、ドキドキ、そして胸がぐちゃぐちゃに熱くなる経験は
最近あまりなかった。
痛快、とか、ノリとか、そういうレベルでこの映画を語ってほしくない。
三池監督以下、映画好きな面々が、
自分の見た名作たちの中に見た「これぞ映画だ!」というものを
今度は自分たちで作り上げるんだという矜持をもって臨んだ作品である。
それがまだよくわかってなかった、というか、
そこまで映画を知らなかった(と思われる)香取慎吾と小栗旬のみ、
気迫と工夫と取り組み方のレベルが違っていたのが、非常に残念。
全編英語で作ったことに対しても賛否両論(というか、「否」が多いが)かまびすしいが、
これはハリウッドに対する日本の俳優カタログとしても、よくできている。
さきほど言及した桃井、石橋はすでにハリウッドでのキャリアがあるが、
他の俳優も、きらりと光るものを示している。
脚本はカタカナだった人もいるかもしれないけれど、
とにかく英語でやってるところは見せた。
「日本人」=「男はサムライ」「女は清楚で従順」みたいな固定観念をとっぱらって、
喜劇的な役も、こずるい役も、ドロドロな情念も、できますよ、と。
「単一民族」と一くくりされちゃうくらい、国籍とか出自が一本化されやすいけど、
実は東の果ての地である日本は民族混合のルツボであり、
「白人」「黒人」「ヒスパニック人」などなど、いろんな人種を使わなくっても
役者一人ひとりみーんな特徴的で、同一の顔をしていない、というのもよくわかる。
塩見省三なんか、どうみたって、インディアンの長老だし。
色も白いのから黒いのから、いろいろいるし。
こんなにバラエティに富んでいる民族なんだってことを、改めて思った次第。
とにかく、色眼鏡をはずして、心を虚しくし、
そのままこの映画に飛び込んでいってほしい。
三池監督、そんなに好きなほうじゃありませんでしたが、
これはすごいです。
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