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「ハチ公物語」


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結婚するまで、
私の家から一番近いJRの駅は渋谷だった。
だから、「ハチ公」はあまりに身近で、
「忠犬ハチ公」が映画になったと聞いたときは、
「知ってるよ、そんな話」という感じで、
お決まりの安っぽい感動なんか要らない、と思ったから、
映画を観ようなどと一度も思わなかった。
今回、WOWOWで放送した「ハチ公物語」と
そのリメイクである「HACHI約束の犬」を
娘が録画したことがきっかけで、
私は初めてこの「ハチ公物語」に触れた。
名作である。
さすがは新藤兼人、
ただの「忠犬」ものでは終わらせないのである。
帝国大学の教授の家にもらわれていった秋田犬ハチ公は、
まずお嬢さんの気まぐれに遭う。
「私が飼う」といっていた彼女(石野眞子)は、
まったく世話をしないまま嫁いでいってしまう。
教授(仲代達矢)は「犬にも人権、いや犬権がある」といって、
猫かわいがり、というか犬かわいがりする。
一緒にお風呂に入ったり、嵐の日は書斎に上げて一緒にソファで眠ったり、
あまりのご執心に奥さん(八千草薫)が嫉妬するほどである。
これは大正末期から昭和初期の犬の飼い方としては異様だが、
ペットも家族、の現代の犬の飼い方としてノーマルといえよう。
ここまで可愛がられていたのに、
教授の頓死でハチ公の運命の歯車が狂い出す。
家は売られ、未亡人は実家に帰るので、ハチは親戚の家に引き取られる。
しかし、
それまでの猫かわいがりとは一変、
外につながれ豪雨の中でびしょぬれに立ち尽くすハチ。
脱走を繰り返し、結局なじみの大工(長門裕之)の家のやっかりになるも、
その大工も急死してしまう。
ここで大工の妻(春川ますみ)の言い草がよい。
「あんたはたくましいから野良でもやっていける。
 野良犬は自由だ。誇りをもって生きなさい」
そして野良犬のリーダーになりなさい、と言って、
家をたたみ、自分は実家に帰ってしまう。
飼いきれなくなったペットをそこらに放してしまったために、
野良猫が増え、野犬が増え、保健所は満杯になり、
ガメラのようなワニガメが増え、カピバラやらヘビやらトカゲやら、
外来種が地域の在来種の生態系を壊している現代のモトは、
「野良犬は自由だ」の発想なのだと思う。
西洋人が飼いきれないペットを殺して責任をまっとうする
その考え方にもついていけないが、
日本人の「後は自分でなんとかして。自然があれば大丈夫」的な発想も、
ちょっと考えなければいけないんじゃないかしら。
毛並みよく丸々と太っていたハチが、
最後は見るからに汚く、やつれて、目つきもしょぼくれて
それでもすがるように渋谷の駅の改札前で座るところは、
「忠犬」というより、ただただ哀れである。
人間の愛玩の対象として、いいように遊ばれ、捨てられた典型だ。
たまたま新聞記事となったのを読んで実家の和歌山から飛んできた
教授の妻(八千草)から、やがてハチは姿を隠そうとする。
「私がいると、またどこかへやられる気がするのかしら」という妻の言葉。
私は「忠犬ハチ公」とは、
主人が死んだのもわからず、パブロフの犬のような条件反射で、
生前の習慣どおりに時間になると主人を渋谷に迎えにいったのだと思っていた。
しかし、
この映画に描かれたハチ公は、
主人の死を知りながらも、すがるような思いで渋谷に通いつめ、
自分を真心こめて愛し世話をしてくれた教授に救いを求めていたのだ。
ラストシーン、
死期の迫ったハチを教授が迎えにくるところには、
思わず「よかった!」と思った。
死んだほうが幸せに思えるほど、
ハチ公の晩年はマッチ売りの少女のように惨めだった。
人間の身勝手さが身にしみる映画である。
あちこちで邪険にされるハチ。
「忠犬」とハチの渋谷通いを目を細めて見ている人々もまた、
ハチに何もしてやれない。
みんなハチが死んでほっとしているのだ。
免罪符のように銅像を立てたのだ。
映画に銅像建立のエピソードはないけれど、
そこまで想像させるこの物語の力は、並大抵ではない。
書生や女中を抱える金持ちの家と、
庶民の家との生活や文化の違いも垣間見え、
いろいろと考えさせられる映画だった。

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