日本アカデミー賞の優秀作品賞にノミネートされた作品の中で、
唯一見ていない、と書いた「母べえ」、
WOWOWにて視聴しました。
さすが山田洋次監督ですし、
出演者も実力者ぞろいです。
戦前、戦中の風物も丁寧に描かれていて
あの時代に生きた人々が見たら
きっと懐かしさとか共感を覚えるのかもしれません。
ただ
私は当時生きていなかったけど、
親から聞いて少しは知っているので、
そうなると描かれたすべてのことをうのみにもできず、
「聞いていたのとちょっと違うな」と
あちこち疑問に思うところもあったりしました。
たとえば、
浅野忠信扮する「山ちゃん」ですが、
この人、何して生活している人なのか。
髪の毛茶色で、おかっぱ長髪なんですよね。
アメリカに宣戦布告する昭和16年までは、
けっこう緩やかだったんでしょうし、
軍隊行くときはもちろん丸刈りになるんですが、
あの髪の長さと赤さが、どうにも気になりました。
気になるといえば、
亭主の留守にバンバン遊びにくる山ちゃん。
拘留中の夫(坂東三津五郎)をふくめ、
家族は公認なのはわかるけれど、
あの「隣組」など近所の目が厳しかったときに、
ほんとの使用人とか書生とか親戚でもないのに
一緒に海水浴にまで行って、
おぼれそうになったら小百合さん、
服のまま飛び込んで助けに行ったり、
ちょっとありえないかな、と。
たとえご近所に親切な人が多かったとしても
いやみの一つ二つ、陰口の三つや四つはあるのが普通じゃないか。
(だって、家の中の事情まで見せられている観客の私ですら、
この二人、やばいんじゃないの?と思っちゃうんですから、
家の中で何が行われているか知ることのできない人は、
いろいろ想像しちゃうわよ、ねー)
それに、
夫は政治犯で拘留されているわけで、
留守宅に出入りする人物は、絶対特高にマークされてるはず。
ど近眼で片耳が聞こえなくても、
山ちゃんは要注意人物にちがいない!
それにしては、のどかすぎやしないか??
それは、この映画の原作を書いたのが
「照べえ」こと、次女の照代さんだということにも
関係があるかもしれない。
原作を読んでいないから、
それがどんなものかはわからないが、
小学校低学年の女の子の目から見た母であり、あの時代なのだ。
そして全体的に見れば、
これは男の人が女の人を描いた映画なんだなー、と
強く思った。
男の人は、未亡人とかそういうの、好きですよね。
耐える女性も、夫を支える女性も、好きですよね。
警察署長の娘に生まれながら、
支那事変に反対する男性と結婚した女性にしては、
彼女は「知らなさすぎ」だ。
ただ盲目的に夫の味方をするだけ。
「夫はいい人、だから悪くない」これだけだ。
いろいろなしがらみから、慎重に言葉を選んで
それでもなんとか協力しようとしている人の
せめてもの愛情や気持ちが察せられない。
でも自分は、
生きるために代用教員となって、
戦勝祈願を学校のこどもたちに促すような生活を送っている。
それなら、
便宜的にでも転向しない夫に向かって、
愚痴の一つもこぼそうっていうもの。
夫に直接言わなくても、きっと心のどこかで愚痴ってるはず。
そういう面を全然描いていないので、
私の中で「母べえ」は等身大の女性に見えかった。
こういう女性になりたい、とも思わなかった。
(特に、山ちゃんの気持ちに気づいていながら
知らないふりをするところなんか、いやらしくさえ思える)
だからといって、
他の誰に感情移入できるかと言われても・・・。
この映画、女性の評価、分かれたんじゃないでしょうか。
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