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「禅Zen」

道元の生涯を描いた…というと、
井上ひさし作・阿部寛主演の「道元の冒険」を思い出しますが、
この「禅Zen」も、同じく道元の生涯を描いております。
今回、道元役を務めるのは、中村勘太郎。
先日、平成中村座での「仮名手本忠臣蔵」で何役をもこなし、
進境著しい歌舞伎役者であります。
勘太郎の無骨な感じ、そして根がやさしい感じが、
道元にピッタリ!
…って、道元さんのこと、そんなに知りませんが、
そんな感じがしました。
中国の宋に修行に行くところから始まるので、
前半はみんな中国語を話すため、
ちょっと戸惑います。
特に、中国語を話す日本人役者のしょっぱなが
西村雅彦(俗物高僧の役)なので、
そこはちょっと違和感。
でも、そんな違和感を一瞬で覆してしまうのが、
次に道元が出会う中国人役の笹野高史です。
ふんぞりかえっている高僧より、
寺の煮炊きを任されているこの人のほうが
ずっと仏法の真理に近いということを
道元が全身で感じる場面なのですが、
この笹野高史が絶品!
こういう中国人、それも悟りを開いた老中国人、
いるいる、何かの映画で見たよねっていうくらい
ものすごーく自然。
中国語でも、日本語と同じくらい笹野高史としての演技ができている。
ああ、この人は、ホンモノの役者、手を抜かない役者、
勉強熱心で、オリジナリティがあって、
誰にもマネのできない素晴らしいものを持っている人だと感服しました。
宋での修行譚が終わり、
道元が日本(京)に帰ってからは、
内田有紀がいい演技をしています。
赤ん坊を育てるために遊女をしている女・おりんの
世の中への恨み、自己嫌悪、救いを求める気持ち、
「ふつうの女」として生きることへの憧れ、などなど、
とても心を動かされました。
また、
終盤に藤原竜也が、北条の執権役で出てきます。
「狂気」の場面ではかなり既視感を覚えましたが、
正気に戻ってからの演技がよかった。
この人は、口元、目元などのちょっとした顔の動きで
万感の思いを表現できる人だな、と
改めて思いました。
勘太郎は、なんといっても所作が美しい。
特に座禅を組むために座るとき、そして立ち上がるとき、
衣や袈裟がだぶつくことがありません。
「禅」という静謐な、沈黙の中に立ち現われる、
こうした「形式美」は、
歌舞伎の鍛錬を積んだ人だからこそ表現できるものなのでしょう。
それが映画の質の高さを支えています。
いい配役だったと思います。
もっとも強く心に残ったのは、
いつもはやさしく物静かに語る道元さんが、
一度だけ声を荒げた場面。
どんな人間にも仏はいる、
けれど自分の目に目かくしをしてしまっているから
見えないんだ。
そんなに簡単に自分の中の仏には会えない。
だから人は修行を続けるんだ、みたいなことを言うのですが、
とっても説得力がありました。
思わず、自分も座禅を組んでみたくなる、
そんな気持ちにさせる映画ですが、
いくつか「?」の要素も。
私は「道元の冒険」を見た後だったので、
彼がどんな思いで宋に渡ったか、とか、
京のお寺に比叡山の僧兵たちがやってきたいきさつとか、
すでに理解していたので物語についていけましたが、
道元って誰?の人にしてみると、
ちょっとついていくのが難しいところがあるような気がしました。
特に、勝村政信扮する波多野義重については、ナゾ。
六波羅探題を預かる武士で、ものすごく道元に心酔し、
僧兵の手から守るように道元を常に支え、
最後は自分の領地に落ち着かせて、それが永平寺となるんだけど、
「どうしてそんなに道元さんが好きなの?」が見えてこない。
別に勝村さんが悪いわけじゃない。
ホンに書いてないんだから。
というか、もしかして、撮ったけどカットされてる?
「道元様はこの世で一人しかいらっしゃらない!」と断言する
その強い信仰心の源を、観客にわかるように書いておいてほしかったです。
あと、
仏教用語が難しい。
「しかんたざ」って、なんだかわかります?
「只管打座」=ただ座るだけ(で悟れる)という座禅の心だそうですが、
パンフレットやチラシで前もって見ていなければ、
どんな字を書くのか、どういう意味なのか、絶対わかりません。
ほかにも禅問答的にいろいろな漢語が飛び出すので、
せめてどんな漢字を書くのかは、テロップを出してほしかった。
それは映画の、ひいては禅の理解の助けにこそなれ、
邪魔にはならないと思うのですが。
「禅Zen」は、1月10日から全国ロードショー。
「死んで浄土に行ってもしかたがない」から始まるこのお話。
本当に、自分の内なる「ほとけ」があるのかもしれない、
などと思っちゃったりできるところに
この映画のすごいところがあります。
それは、道元さんのすごさ、なのかもしれません。

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