「空気人形」
とっても素敵な映画でした。
ラブドールにメイドの服を着せて食卓に座らせ、
その日にあったことをあれこれ語って聞かせる男が板尾創路、
空気でふくらむ人形でしかないのに心を持ってしまうラブドールに
ペ・ドゥナ。
ペ・ドゥナが人形とわかってもなお、
愛し続けるレンタルビデオ屋の青年・順一は、ARATA。
そのレンタルビデオ屋の主人が岩松了。
傷心のラブドールを「お帰り」とやさしく迎える人形師にオダギリ・ジョー。
ビニールの人形が、生身のペ・ドゥナになるその瞬間が、
あまりに見事でまったく違和感がない。
最初は人間の顔をした人形だったのが、
だんだん、人形の顔をした人間になっていく。
少しずつ、少しずつ「人形」を捨てていく彼女が、
また「人形」に戻らなければならない時間の哀しいこと。
「私は、ウソをつきました。
心を持ったので、ウソをつきました」
そんなセリフの一つひとつが一編の詩となって風に舞い上がる。
そして、
「手」を切ってしまい、空気が抜けていく「彼女」に純一が息を吹き込む場面が
ものすごく官能的。
是枝監督はこの場面を原作のマンガで見て映画化を考えたというだけに、
その後の伏線となっていく大事なシーンでもある。
近代的なビルの谷間に取り残された町に住む、
孤独な住人たちの心の空洞と、それでも生きたい衝動と。
寂しさの上に温かさが重なった映像はリー・ピンピン。
とにかく、ペ・ドゥナが最高。
そして、オダジョーの役は、彼でなければ絶対醸せない味を出して秀逸。
ラスト近くにどんでん返しが待ち受けていて、
単なるファンタジーでは終わらせてくれない、おとなのおとぎ話。
心がささくれているときに見ると、じんわり癒やされるかも。
幸せなときに見ると、人にやさしくなれそう。
いい映画でした。
- 映画
- 16 view
この記事へのコメントはありません。