野火(DVD) ◆20%OFF!
神保町ホールで見ました。
圧倒的です。本物の戦争映画です。
太平洋戦争末期、
フィリピンの島のひとつ、レイテ島での日本軍の敗走が
いかに兵士たちに過酷な日々を強いたか。
それを淡々と、淡々と、描きます。
最近、太平洋戦争を題材にした映画やドラマが多いですが、
私のようにその戦争をリアルタイムで経験していない人間から見ても
「これって、ありえなくない??」と思うことが多い。
たとえば、
言葉の使い方。
ピチピチ、ポッチャリ、プクプクの肌。
シミ一つない服。
「気をつけ」の姿勢。
上官や教師、近所の人たちの前で不用意に漏らす本音。
だから、
真っ黒で、ボロボロで、骨ばって、うつろな目で
まるでけもののようにジャングルを徘徊する彼らを見た時、
そうだ、やっぱり、本当の戦争はこうだ、と思わずにはいられなかった。
主人公の田村役には船越英二。(最近亡くなられた)
田村は肺病を病み、「食わせておけない」と隊を追われ、
「まだ倒れてない」と病院も追われ、
生きていくためなのか、死ぬためなのか、わからなくなりながら
捨てられて、ただジャングルをとぼとぼと歩く。
先日紹介した平成11年に放送した番組の中で、市川監督は当時を振り返ります。
「船越くん、やせてくれっていったら本当に食べなくてね。
さあやろう、っていったら、しゃがんだまま立ち上がれないんだよ。
奥さんに聞いたら、どんなに言っても食べてくれなかったってね。
医者に見せたら栄養失調だっていうしさ。
それでロケも延期したんだ」
あの、腹よりヒザが前に出て、カクカク歩く姿は、
そこまで「飢餓」を体で知ったからこそできた演技なのか??
手榴弾と芋、
雑嚢(ざつのう=バッグ)にまず手榴弾を入れ、
いったん捨てた芋を思いなおすようにまた雑嚢に入れなおし立ち上がる田村の心境を、
何のセリフもなくカメラのみで追う、その描写に引き込まれる。
すでにゾンビのようになって無言で歩き続ける兵隊の列に、
米軍の機銃掃射が。
一斉に伏せる兵士たち。
ややあって、そのうち何人かは無言で立ち上がり、行軍を続ける。
そして半数はばったり倒れたまま動かない。
雨季のフィリピンのジャングルの、どろどろの黒いぬかるみの中に
うつ伏せの白いシルエットが虚しい。
飢えに飢え、そのシルエットの一つになりかけた田村を救ったのは、
顔見知りの兵士・永松(ミッキー・カーチス)。
彼はこのレイテ島の「猿」を仕留めてはその肉を食べていた。
「猿」とは?
田村はそれ以前に、他の兵士とこんな会話を交わしている。
「ニューギニアで人を喰ったって、本当ですか?」
「人間か。…まさか、っていうことにしておこう」
生きるとは何だろう。
死ぬとは、何だろう。
殺すとは何だろう。
けものと人の境がなくなるところまで行かざるをえなかった人々の、
それでも人は気がつくと生きようとすることの、
その状況下で「自分」であり続けることの、
重さを目の当たりにする2時間。
昭和30年代初めの映画。
「三丁目の夕日」の住人たちは、一方でこんな地獄からの生還者でもあった。
そのことを、
私たちは絶対に忘れてはいけないと思います。
戦争映画やドラマを作ろうとする方は、必ず見てほしい映画。
これでも、
原作に比べればかなりオブラートに包んではありますが。
原作については、明日。
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