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「霧の子午線」

霧の子午線
吉永小百合と岩下志麻が初めて共演した映画です。
原作は高樹のぶ子。
全共闘時代から「私は左、あなたは右。絶対離れないように」とスクラムを組んで歩いてきた
2人の女性の20年を追った物語。
そうですね、
「風と共に去りぬ」のメラニーが吉永小百合、スカーレットが岩下志麻、
といったところでしょうか。
「共演」というより、「競演」の方がふさわしい。
とにかく、岩下志麻演じるキヨの
「私はがんばってきたのよッ」といったキャリアウーマンのトゲトゲしさが、
妙にリアリティーがあって引き込まれました。
職場では非常にスマート、若々しいのに、
家に帰って家事とかしている彼女はエプロンも似合わず、
「息子が帰ってこない~!!」と電話口で泣き叫び、パジャマでどよんと過ごすところが、
またまたリアル。
産んだのは自分なのに、息子は「親友」のヤエ(吉永)ばかり慕うし。
この「息子」が山本耕史。
若い! おハダツルツル! 
未成年のクセして吉永小百合に迫るところあり。若者の甘さと暴走とを表してあっぱれ。
一卵性双生児のような二人。実の姉妹より頼りあう二人。
実は「同じ男」を好きになってしまう。
それは、過去にも、現在でも。
互いを求め合い、互いを補い合って生きてはきたが、
裏では消しがたい嫉妬の炎が燃えさかる。
キヨは時々バクハツして鬼のように錯乱し、
ヤエはそんなキヨを尻目に男を誘う。
誘っておいて「やっぱりキヨに悪い」とか、
なんなんだー!! 
…という、ヤな女を吉永小百合が好演。
いるよね、こういう人。
優等生で優しくて、でも、人の一番イヤなことする人。
おまけに病気ときてる。
キヨさん、捨てるに捨てられない。
どっちが強いんだろう?
誰からも慕われるのはヤエだけれど、
健康も仕事も子どもも、持っているのはキヨなんだ…。
負け組、勝ち組、という言葉があるけれど、
この2人の中には、
互いに「勝った」気持ちと「負けた」気持ちが混在している。
「共同生活」の中で男女の結びつきも特殊なものとしてとらえていた日々。
そういう時代に青春を送ってきた全共闘世代の人々には、
古傷がうずくようなピリピリ感があるかも。
今の時代にうつして考えると、滑稽さも浮かび上がる2人の関係だけれども、
1970年代というのは、決してキヨに優しくなかったと思う。
「シングルマザー」などという言葉もなく、
「未婚の母」「父親のわからぬ子」などといったレッテルを貼られながら、
世間に挑むようにして険しい山道を歩きぬいてきた20年間。
そう考えると、
キヨにとって常に味方であってくれたヤエは、かけがえのない存在。
惚れたはれたの諍いがあろうがなかろうが、
その20年こそ2人はスクラムを組み、「同志」として共同生活を営んできたのかもしれない。
ベターハーフとは連れ合いを指す言葉だけれど、
キヨにとってはヤエこそがその人であり、
ヤエにとっても、
キヨの子どもは自分の子どもだったのだと思う。
女の激しさと、哀しさが伝わってくる映画でした。1996年の作品。
2人の「今」の男は、玉置浩二でした。

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