「ALWAYS 三丁目の夕日」は、ある意味“反則”な映画である。
なんてったって、今ない風景でありながら、
多くの日本人の心の中にはくっきりと残っているものを鮮やかに映し出してしまうのだから。
集団就職した人は、駅のシーン。
住み込みをしていた人は、工場の二階の窓辺のシーン。
駄菓子屋に通った人は、竜之介の家の店先。
「そうそう、そう!」の連続だ。
電気冷蔵庫や、テレビが初めて家に来た時のわくわく。
板塀の脇に置かれたフタ付きの木のゴミ箱。
空を区切っていた都電やトロリーバスの電線。
オート三輪。
肘にツギあてをしたセーターを来た男の子。
肩ヒモのついたプリーツスカートをはいた女の子。
誰もが、スクリーンの中の住人にすぐなれる。
この時代を知らない人は知らない人で、
銀座の町に残る和光の時計とか、
作りかけの東京タワーとの地理関係から、
「へえ、こんなだったんだー」と楽しむことができる。
「東京」は、今もここにあるから。
堤真一を中心とする「鈴木オート」一家と、
その向かいに住む万年文学青年・茶川竜之介(吉岡秀隆)、
ヒロミ(小雪)の紹介でそこにやっかいになることになった男の子(須賀健太)が話の中心だが、
ストーリーはたわいのないものである。
かつてのテレビドラマ「寺内貫太郎物語」(小林亜星、加藤治子、西城秀樹ほか)や
「ムー一族」(伊藤四朗、渡辺美佐子、悠木千帆=樹木希林、郷ひろみなど)と同じ、
ご近所お茶の間ものだ。
「時間ですよ!」(森光子、堺正章、浅田美代子、天地真理ほか)も同類。
ひとつ屋根の下、住み込みという文化の中で他人がいっしょに生活する空間で起きる、
さまざまなエピソードを散りばめている。
そして必ず、不幸で美しい女の人が、飲み屋のおかみさんをしている。
ここでは、小雪がその役。
ただ、「私、不幸なの~」という顔をしていないところがいい。
私が一番好きなシーンは、ラスト。
休憩中の小雪が、仕事場の屋上で左手の小指を太陽にかざすところは、
その笑顔が哀しすぎて、かえって涙を誘う。
「スリーピース!」や「喰いタン」で大活躍の子役・須賀健太が、
居候の子ども・古行淳之介役で、この映画でも天才ぶりを発揮する。
彼の瞳の輝きが、人の幸せと不幸せを刻々と表現していく。
三浦友和が、町の誰からも尊敬され好かれる町医者を好演、
10年以上たっても消えない戦争の傷跡を心に抱えて寂しく微笑む。
みんな不幸で、みんな貧しかったけれど、
戦争の時よりはずっとましだったから、
今日より明日のほうが、きっとシアワセになれると根拠もなく信じられた時代。
それが、昭和30年代だったのかもしれない。
東京国際映画祭では、ロードショーに先駆け、続編「ALWAYS 続・三丁目の夕日」が公開される。
キャストもスタッフも、自信作だと胸を張る。
昭和の夢よ、もう一度、かな?
ただあの右肩上がりの急成長は、
お隣りの国で朝鮮戦争が勃発、それによって得られた好景気だったことを
今は知っておかなければいけないと思う。
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