「山椒大夫」は読んだことがなくても、「安寿と厨子王」は知っている、
そんな人は多いと思います。
だまされて母と離され売られ、働かされる幼い2人。
姉の安寿は、弟だけでも逃がそうと、自分が犠牲になる。
そして、弟は生き延び、最後に母とめぐり逢う・・・。
私は以前、原作「山椒大夫」を読んではいましたが、
「えらい姉さんだな」ぐらいの印象しかありませんでした。
でも、最近読み直してみると、ぐっと惹きつけられるものが・・・・・・。
森鴎外の思いのつまった一文一文は、簡潔・静謐にして鮮やか。
同じ明治の文豪とはいえ、
夏目漱石は好きだけど、鴎外はちょっととっつきにくい、と思っていた私は、
改めて鴎外の筆の確かさ・構成の見事さ、そして思いの深さに感嘆しました。
そんな私の目に、原作と映画は別のものに映りました。
溝口監督の作品では、安寿が妹、厨子王が兄で、森鴎外の原作と設定が逆です。
安寿が厨子王を逃がして入水するのは同じですが、
物語のウェイトは、厨子王の「その後」に大きく傾いています。
昭和29年という時代の色でしょうか。
虐げられた人々を救わねばならない、平等な世の中でなければならないというメッセージが強く、
関白への直訴や奴婢解放の触れなど、その時代の出来事として描くには少々無理のある展開に、
ついていけない人もいるかもしれません。
それでも、溝口監督が描こうとした厨子王の「もがき」は、胸の奥底にずっしりと残ります。
「これからは、お金で母や妹を幸せにできます」という厨子王。
奴婢解放の宣言をしながら、「ほめてくれますか?」と安寿を探し求める厨子王。
でも、安寿はもういないのです。
また、佐渡で厨子王に見出された母(田中絹代)は、
初め本物の厨子王だと信じず、すさんだ顔をしています。
それが本人だとわかった途端、その表情に希望の光が射します。
そして希望は次の希望を呼ぶのです。
「安寿は?」
希望を持たないことで不幸に耐えてきた人間が、希望を持った途端にそれを奪われる。
田中絹代の口元の、小さな変化がすべてを語り、心を揺さぶられました。
映画「山椒大夫」は恵比寿ガーデンシネマで2/23、24の二日間上映されます。
また、下のDVDに収録されています。
溝口健二 大映作品集 Vol.1 1951-1954
*2006年9月のMixi日記をもとに、書き直しました。
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