エースをねらえ! 全18巻 山本鈴美香/作
スポーツものの漫画というと、
初期はなんといっても「巨人の星」と「サインはV!」そして
「アタックナンバーワン」だと思います。
努力して、努力して、「1番」を目指す。
それが「スポ根」(スポーツ根性物語)の極意です。
その延長戦上に誕生したのが、山本鈴美香の「エースをねらえ!」。
「巨人の星」の星一徹と飛雄馬、
「サインはV!」の牧コーチと朝丘ユミ、
「アタックナンバーワン」の本郷コーチや猪野熊監督と鮎川こずえよろしく
宗方コーチと岡ひろみの関係は、そのスパルタ指導と絆の深さで私たちを虜にします。
ただ一つ、
これらの漫画と一線を画する出来事は、
「魔球なし」
魔送球・大リーグボールなし、稲妻落とし・X攻撃なし、
木の葉落とし・消える魔球・大ボールスパイクなし。
(ほかにもいろいろあり。
こうして魔球の名前を並べていくと、
この3作がいかに影響しあいながら作られているかがわかります)
宗方コーチは「安易に魔球をあみだそうなどと考えるな」と
目くらまし的技巧の一切を排し、
ただ努力の末に到達する王道的技術と精神の完成を岡ひろみに求めます。
そこが「1番になる」「勝負に勝つ」という相対的な目標ではなく
「なりたい自分になる」という求道者的・哲学的美学を生んでいます。
岡ひろみは竜崎麗香(お蝶夫人)という天才に憧れてテニスを始め、
その竜崎のライバルでもある緑川蘭子(実は宗方コーチの異母妹)と競い、
いつしか竜崎麗香とも争い、そして追い越していきます。
今でも時々思い出す言葉。
「私のために・・・」
当時のテニス界に押し寄せるプロ化の波。
これから「世界」で通用するテニスプレイヤーとしては
もはや自分たちのプレイスタイルでは難しいと自覚したお蝶夫人と蘭子は、
世界へ羽ばたこうとする岡ひろみのために、
自分たちのありったけの技術を岡に披露し、すべてを伝えようとします。
「勝つためだけになら、こんなプレイは必要ない。
私のために、
私に見せるために・・・」
真剣勝負のコートの中で、
先輩が送るはなむけのボールの意味を、
後輩・岡はしっかりと受け止めるのです。
試合が終わったとき、ネットをはさんで握手をしながら
「ありがとうございます」と涙ぐむ岡に、
「わかってくれたのね」と微笑むお蝶夫人の神々しさ。
超一流の人間にも自分の限界に絶望する瞬間があること、
それを自分の糧にして、
「何をすべきか」道を探る人々の真摯な態度に、胸打たれる。
これが、
「エースをねらえ!」の醍醐味です。
ドSのコーチとドMの女子のよくある恋愛ストーリーと思っているアナタ。
この話は、深いです。
ぜひご一読あれ。
アニメシリーズや実写版などいろいろありますが、
原作コミックを越えるものはないです。
*「エースをねらえ!2」は、アニメ版が素晴らしい出来ですよ。
これについては、また明日書きたいと思います。
(訂正。「新・エースをねらえ!」ではありませんでした。ごめんなさい。)
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