試写で「シャネル&ストラヴィンスキー」を見てきました。
カンヌ映画祭のクロージング作品ですが、
フランスの映画祭のクロージング作品にふさわしい、
密度の濃い映画でした。
おすすめ。
特に、バレエや音楽など、芸術に関心のある方は必見。
シャネル生誕125周年とかで、
舞台に映画にとシャネル関係の作品の上演・上映が続きました。
「ココ・アヴァン・シャネル」は未見ですが、
ほかは舞台も映画もいろいろ見たおかげで
ココ・シャネルの一生にものすごく詳しくなってしまった感あり。
相乗作用で一つの映画では空白となっている部分も、
ほかの作品で背景を知っているので
すんなり入ってきます。
もちろん、作品ごとに登場人物の描かれ方は微妙にちがいますけどね。
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今回の「シャネル&ストラヴィンスキー」は、
シャネルの生い立ちとか人生とかはほとんど触れられていない。
どちらかというと、時間軸はストラヴィンスキーにある。
「春の祭典」の初演時から始まって、
数年後の再演に終わるという形が見事。
「春=発情=恋」の不安と爆発を予感させる
ストラヴィンスキーの音楽が効果的に使われている。
バレエや音楽を知るものにとって、
映画の冒頭、
「春の祭典」の初演の雰囲気に居合わせられる幸せが、
まずすごい。
「眠れる森の美女」みたいなバレエや音楽しか知らない人たちが、
そういうものを期待して着飾って劇場に行ったら、
ビナ・バウシュの作品を見せられた、みたいな衝撃。
時代より先を行く、とはこういうことだろう。
今見たって、「わかる」っていえるのか。
その「胸騒ぎ」や「混乱」を
ジェットコースターに乗っているときそれを快感と認識できるか
それとも単なる恐怖、単なる嫌悪と感じるか、
それだけの違いでしかないのかもしれない。
20世紀初頭のパリ、
馬車と車に象徴される、
19世紀の世紀末の文化の爛熟と
20世紀の新しい芸術運動の予感の渾然一体とした雰囲気が、
本当に素晴らしいセットや衣装、小道具によって再現されている。
まるでタイムスリップして
芸術に「新しい言語」がもたらされたその瞬間を体感する。
それだけでもこの映画を見る価値があった。
中間は男と女の恋の鞘当。
ロシアの大地と信仰とともに生きた妻と
当時世界でもっとも自立した女と言っても過言でなかったろう
シャネルの間に散る火花。
そして最後、話は「男の自立」へ。
ストラヴィンスキーが一皮むけていく、
その過程を、
ほとんどセリフを排し
シャネルとストラヴィンスキーそれぞれの
「生みの苦しみ」を追うことで描いていくその力強さに
この映画の真骨頂がある。
かなりきわどいベッドシーンがあって、
思わず息をのんだりするんですが、
歴史の中で積み重なったフランスのリッチなたたずまいと
洗練されたシャネルのデザインと
深く静かに潜行する隠微な恋のぬめりと
人間のどうしようもない欲望と…。
芸術とは、それらすべてを肥やしにして
一つの結晶にしている。
創作者たちの葛藤とエネルギーが見えてくる映画だった。
そして。
私はこのフランス映画を見ながら、
この前歌舞伎座で見た近松の「河床」を思い出していた。
シャネルと妻と、
二人の女がストラヴィンスキーにつきつけたものって
まさに「河床」の世界なんだよね。
一人前の男をきどってるけど、
あんた、女がいなくちゃ何もできないの?
退路を断って決断したのは、女。
ストラヴィンスキーさん、そこ、わかったの?
古今東西、やっぱ男と女の営みこそが、
すべての始まりなんだなー。
「河床」、もう一回みたい。
今度は違う目で見られそう。
*「シャネル&ストラヴィンスキー」の公開は、来年お正月第二弾。
また初日が決まったらお知らせします。
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