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「輝く夜明けに向かって」

輝く夜明けに向かって」は、まだアパルトヘイトという公然と人種差別をする政策があった頃の、
1980年代・南アフリカの物語です。
主人公は、当時の黒人としては比較的恵まれた労働者だったパトリック。
白人に雇われる身として表立った反抗はせず、
黒人仲間に揶揄されようが、反アパルトヘイトの活動には見向きもしない。
日々を穏やかに過ごし、愛する妻と子どもとのささやかな幸せを守ることを第一として、
体制の中に埋もれて生きていました。
ところが。
ただ妻に浮気を知られたくない、そのための「ウソ」がアダとなり、
無実にも拘らずテロ活動の犯人だと疑われ、過酷な拷問を受けます。
拷問の手は美しい妻にも・・・。
結局真犯人がつかまったことで釈放はされますが、
パトリックはこのことがきっかけで初めて白人支配を憎悪するようになり、
本物のテロリストとなる決意をするのです。
これは、実話が基になっています。
パトリック・チャムーソはその後石油精製所爆破の主犯として捕まり、
24年の刑を受けて、マンデラ大統領と同じ刑務所に服役しました。
現在も南アフリカで、生きている人だと聞くと、
映画が、ただの「物語」では終わらなくなります。
アパルトヘイト関係の映画としては、「遠い夜明け」がもっともメジャーで、
他にも「サラフィナ!」「パワー・オブ・ワン」「アモク!」など、
力作がたくさんあります。
それらは、まだアパルトヘイトが実際にあった頃、
もしくはようやく終わりを告げた頃に作られた映画であり、
なかなか他の国の人間にはわかりにくい現場の実情を世界に発信するという、
その時代ならではの重大な役割がありました。
では、なぜ今「アパルトヘイト」なのか?
「そっちの人間」だと思われたら最後、それだけでひっぱられ、拘留され、職を失い・・・。
これはそのまま、9.11直後のアラブ系移民の立場に似ています。
制度としてのアパルトヘイトは消滅したけれど、
いったんコトがあれば、
人間の心の闇からまたぞろ差別と偏見の気運がふくらみ、
公然と誰かを虐げても、それを「おかしい」と思えなくなる。
恐怖の裏返しとしての暴力。
それは、どこの国でも、どんな種類の差異をきっかけにしても、
起こりうることなのです。
そして、人は日常の中から、憎しみの種を植え付けられる。
憎しみが憎しみを生むことの虚しさと
決して戻ってはこない幸せな日々を
この映画は私たちにおしえてくれます。
自分だけは、大丈夫。
私は政治はわからない。
ひっそりと、言うことをきいて、静かに暮らしていれば、大丈夫。
そう考えているすべての人に捧げます。
パトリックが奪われたすべてのものと、
パトリックが壊したすべてのものと、
パトリックが勝ち得た、たった一つのものの大きさを感じてください。
そして、どうしたら憎しみの連鎖を止められるのか、
考えてください。
この映画は今日から日比谷シャンテシネなど全国で公開されます。
そのシャンテシネで同時期に「グアンタナモ、僕たちが見た真実」も上映されるというのは、
まさに時代を映しているのだといえましょう。

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