アミスタッド
密貿易船アミスタッド号の難破に端を発する
実際に起きた事件を題材にした、
スティーブン・スピルバーグ監督作品(1998)。
難破した船の「積荷」だった黒人奴隷が生き残ってアメリカに漂着した。
この「積荷」は、一体誰のものか?をめぐって三者が争う裁判が始まる。
この頃(1830年代)台頭してきた奴隷制度廃止論者が一枚かんで、
英語を話せない黒人たちに、
元奴隷の黒人(モーガン・フリーマン)を通訳として、
若い弁護士をつけることとなる。
不法に連れてこられたことを証明し、
彼らをアフリカに返そうという主張である。
この裁判が政治的側面を見せ始めたことで、
大統領なども関心を示すようになる。
この映画の見所は、まず奴隷船の凄絶さ。
人間を人間と思わない「奴隷」という概念の恐ろしさを、
肌で感じられる。
もう一つは、「通訳」という存在の大きさ。
通訳を介して、アフリカから来たばかり (アメリカ文化を知らない)のアフリカ人が、
きちんとした考えをもっていることに、
傍聴人たちはものすごく驚く。
この頃のアメリカ人にとって、
アフリカ人は、「ライオン」や「象」とほとんど同義語だったのだ。
そして私にとって最大の衝撃が、「奴隷解放」と「奴隷制の廃止」との違い。
黒人たちは、どんな名目でもいいから、故郷アフリカに帰りたい。
ところが、彼らの味方だったはずの「奴隷制廃止」論者は、
「ここで彼らが死んでくれれば、盛り上がる」みたいな考え方なのだ。
今そこにいる者の幸せなど、どうでもいい。
私はイデオロギーというものの残酷さに身震いがした。
私たちは、世の中の差別や偏見をなくそうとする時、
どうしても「べき論」に走りがちだ。
理論的にはそうかもしれない。
でも、いま差別されている人は、生きている。
今日も明日もあさっても、差別の中で生きていかねばならない。
彼らの苦しみ、そして希望を共有しなくては、
真の解放などありえない。
私は、「アミスタッド」を観て、それを強く感じた。
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