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「ヘルゾンビ」

小説であれ、舞台であれ、映画であれ、テレビであれ、
私はどんなジャンルの作品にもいいものと悪いものがあり、
その「ジャンル」そのものがいい、悪い、ということはないというのが持論である。
だから、
○○だから見ない、△△だからよくない、と食わず嫌いはしないことにしているが、
スプラッターホラーだけは、生理的にダメ。
それで、このテの映画にはあまり詳しくない。
しかし、夫はこのジャンル、天才的にマニア。
その夫から「ぜひ見てほしい」そして「解説してほしい」とのリクエストがあったのが、
この「ヘルゾンビ」である。
「深い話だってことはわかるんだけど、どういう話なのかまったくワカラナイ」とか。
私はこの夫に「B級作品の一級品」として「ターミネータ」第一作をリアルタイムで紹介され、
いたく感激した人間。(こんなメジャーヒットシリーズになるとは…)
また、やはり彼に勧められた「バタリアン」も面白かったので、彼の言葉は信じているのだ。
ということで、レビューに入ります。

ヘルゾンビ(DVD) ◆20%OFF!
ある日、世界中の9歳以下の子どもたちが、原因不明の昏睡状態に陥る。
そして10年後、彼らはそのままの状態で親から介護をされながら成長し続けていた。
その間、生れる子、生れる子、みな昏睡状態。
ちょうどその頃、10年の刑期を終えて仮釈放になってふるさとに帰ってきた男トムがいた。
トムが身を寄せる兄エリックも、19歳になる息子を自宅で介護している。
「機材一つにもカネがかかるだろ」というトムに、エリックは
「大学に行かせる費用と同じさ。何年分かのクリスマスプレゼントとか」と答える。
日に2度、きっかり10時に、世界中の子どもという子どもには全身発作が起こる。
大きくなった息子の身体を抑えるエリックにも寄る年波が。もう限界が来ていた。
とうとう国によっては「産児制限」と称し中絶を法制化しようとするところまででてきて、
あちこちで暴動が起きているというニュースが流れる。
ある日、
すべての子どもたちが、ベッドから起き上がり、大人という大人を殺戮し始める。
世界中の町という町で、大人は無言で、容赦なく、襲われていく。
殺されるほどの理由もわからず襲われる恐怖とか、
日常では「殺人」は悪のはずなのに、
身内を殺されてしまうと逆上し、憎悪のかたまりとなって殺しまくるとか、
さっきまで一緒に逃げていたのに、気がつくと自分が助かるため仲間を犠牲にしていたり、
たとえ殺戮者とわかっていても自分の子であれば愛しいとか、
最愛の存在をあやめてしまった後の絶望とか、
この話には「殺す」とは何かが散りばめられています。
そして、キーワードは「怒りの葡萄」。
序盤で、「怒りの葡萄」を読んでいるトムをエリックが見て「恐慌の話だろ」という場面があります。
トムは「そうだけど、家族の話でもあり、希望もある」とエリックに読むといい、と勧めます。
スタインベックの「怒りの葡萄」の主人公も「トム」といい、
殺人の容疑での刑期を終えて帰ってくるところから始まっている。
だから貧乏人が苦労しまくるこの作品の中にもトムが「希望」を持つのは、むべなるかな。
彼は、しんどい人生の中にでも生れるはずの、精神的な救いを求めている。
ネタバレになるので、どこまで書くか難しいところだけれど、
私は、主人公が若くして(大学生)結婚していながら、つまらないケンカで人を殺し、
すべてを台無しにした、ということからすべてが始まっていると思っています。
トムが「人を殺した」その瞬間から、すべての「命」が時計を止めたのです。
怒りの葡萄もまた、キリスト教の影響が濃い作品ですが、
「ヘルゾンビ」では、ある説教師の遺した日記が主人公に大きな影響を及ぼします。
「子ども達に身を捧げれば、恐怖に縛られて生きてきた者も神に救われる」
私は信仰者ではないので、
こういう言葉を投げかけれられて啓示を受ける人の気持ちはわかりませんが、
もしかしたらトムの10年は、刑に服するか否かの問題とは別に、
「殺してしまった」ことへの罪の意識にさいなまれ続けた10年だったのかもしれません。
「僕も誰かの弟を殺してしまったのかもしれない」というトム。
一人を殺した愚かな行為で、たくさんの人たちを不幸にしてしまったと悟ったのでしょう。
この映画が「ヘルゾンビ」というタイトルになったのは、
製作者であるクライヴ・パーカーが
「ヘルレイザー」というホラーの名作(らしい)の作り手だったからの一点。
この内容からしたら、もっと違うタイトルをつけていれば違うファン層を発掘できたのでは?
大体、10年寝たきりの子ども達が起き上がったからといって「ゾンビ」とはいいません。
彼らは青白く無表情でものを言わず、団体で行動し迫ってくるので、不気味に見えますが、
死人ではないし、銃で撃たれればその場で絶命する「生きている人間」です。
今や殺人鬼の一人と化した娘に「目を覚ましたのね…」と、涙と笑顔で近寄る老いた母に、
思わず共感。
その母親の愛に気づかぬ子どもにも、共感。
親と子の愛憎入り混じったぐちゃぐちゃな絆が、
「相手の気持ちがわからない恐怖」という形で象徴的に表現されているのかもしれない。
今の大人たちは、大人の勝手で子どもたちを不幸せにしていないか、というテーマにもみえます。
とにかく、観ている間も、観た後も、いろいろ考えさせらました。
「怒りの葡萄」…。
私もエリックと同じく「世界恐慌の話でしょ?」くらいの、
労働者の暗い話という印象しかなかった。
今読んだら、また違うことを感じるかもしれない。
読み直してみようかな。
原題は「The Plague」。
疫病、伝染病、とも訳せますが、天災、天罰、とも読める。
人の手の及ばない、大きな力で伝播するものを感じさせます。
世界中の子供たちに、一体何が、伝染していったのでしょう?
途中、殺戮場面はあるものの、
スプラッター嫌いの私でも全然ダイジョウブです。
家族の問題を大きく考えさせる秀作。
ぜひご覧ください。

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