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「マンデラの名もなき看守」

「あなたにとって、尊敬する人は誰ですか?」
私には、長いこと心酔する人がいなかったので、
こうたずねられても、パッと答えることができないでいた。
しかし、
自由への長い道」という本を読んでから、
私は即座に答えられるようになったのだ。
「ネルソン・マンデラです」と。
彼の生い立ちから大統領になるまでの道のりを書いたこの本を読んで、
何が一番びっくりしたかというと、
彼は27年間も刑務所に入り続けていたということ。
刑務所に入る前の活動も、もちろんすごいし、
出た後もすごいけど、
私は刑務所にいる間のネルソン・マンデラに、心から傾倒してしまった。
服役していたマンデラは、一囚人でありながら、
いつしか周りの人々を感化していったというのだ。
声高に訴えるのでもなく、
ただ静かに語る、その言葉、そして態度に、
みんな惹かれてゆくのだと。
それは囚人だけではない。黒人だけでもない。
なんと、最初は黒人を、マンデラを毛嫌いしていた看守までが、
マンデラを慕うようになったのだ、と。
この「マンデラの名もなき看守」は、
そうした看守の心の変化を追った名作である。
「自由への長い道」はマンデラが中心に描かれているが
この映画はあくまで、看守のグレゴリーが主役。
ジョセフ・ファインズが、人間の心の揺らぎをストレートに伝える素晴らしい演技を見せている。
グレゴリーの妻グロリア役のダイアン・クルーガーも好演。
「自分の生きる箱の外の世界を知ろうとしない」人間の、無邪気な残酷さを深くえぐった。
実際に、
マンデラは大統領になっても、元看守を自宅のパーティーに招いたりしている。
そこに心の交流はあった。
27年間囚われの身であったマンデラも苦しかったろうが、
「看守」という身分に閉じ込められたグレゴリーもまた、
がんじがらめに囲われ、監視され生きていかねばならない。
そのあたりに、非力な庶民が生きるということの大変さを滲ませていた。
無防備すぎるグレゴリーの行為に、多少「ありか?」と鼻白む場面もあるが、
アパルトヘイトなど何もしらなくても、
人の心にビンビン響く、上質な作品に仕上がっている。
南アフリカで敢行されたロケの風光も明媚。
社会派的なテーマを扱いながらも、家族の話、人間の良心の話に集約して
誰にでも感情移入できる。
封切りは5月17日。
有楽町1丁目シネカノン(有楽町駅前ビックカメラ7階)、シネマGAGA!(渋谷公園通り)
おすすめである。

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