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ギリシャの小さな島で結婚式を挙げようとする
シングルマザーに育てられた娘・ソフィア。
母親ドナの日記から自分の父親である可能性のある3人の男性に
母にナイショで結婚式への招待状を送る。
ソフィアの夢は、本当の父親に手を引かれ、ヴァージン・ロードを歩くこと。
ところが3人が3人とも「可能性がある」とわかり、大混乱!
…という話を、
ABBAのヒットソングに載せて作ったミュージカルを、
メリル・ストリープをドナ役にして映画化したのがこの作品。
この作品が成功したポイントとして、私は3つを挙げたい。
一つめは、なんといってもABBAの歌。
ヒット曲が多く、耳なじみがよく、という音楽的要素もさることながら、
何十曲という歌の歌詞、それもABBAの歌詞だけを並べて、
よくぞここまでのストーリーを考えた、という意味で、
台本を書いたキャサリン・ジョンソンという人を讃えたい。
ABBAのビヨルンでさえ、
「この話のために私は歌を作ったように思える」と言っている。
ABBAの歌はリアルタイムで聴いていたが、
「歌詞カードと首っ引き」にまではのめりこんでいなかったので、
一つ一つの言葉がとても新鮮だった。
もう一つ、
この物語の舞台をギリシャにしたこと。
映画で観ると、それは風光明媚な場所がロケ地としてビジュアル最高!
みたいな理由で選ばれたように思えるけれど、
これは「ギリシア演劇」への絶妙なオマージュとなっている。
それは映画ではエンディングにちょこっとギリシアの神々が出てくることで
ちょこっと匂わせているのだけれど。
ギリシア演劇の基本ともいえる「三一致の法則」や、その他の構造が
ちゃんと踏襲されている!
・演劇の開始から終了までがおよそ一日。(結婚式前日から当日までの話)
・場所は一つの島の中だけ。
・コロスがいる。
(主要人物が歌い出すと、その他大勢がまさに「コーラス」参加する)
・神殿がある。
(この島はアフロディーテの泉があったところとされる)
・神様の「気まぐれ」で話が始まる。
(ソフィの父親候補3人ソフィに呼ばれてやってくるが、
ドナにとって不可抗力、という意味でギリシャ演劇によくあるバターン)
・ディオニュソス的祝祭劇
男女入り乱れての歌と踊り、結婚式(宴会)、などなど
本能のままに現世の楽しみを享受することの幸せを描いている。
最後の一つは「ヒッピーの同窓会」
1999年、ABBA結成25年に合わせて発表されたミュージカルなので、
20歳のソフィの出生は「20年前」の「1979年」。
1970年代といえば、カリフォルニア・サウンド全盛で、
その頃ヒッピーとかロッカーとかそのグルーピーとかやっていた
イカれた若者たちが
ソフィの結婚式で「20年後の再会」を果たす。
「バカやっていた」青春時代を懐かしみ、「今」の自分たちをみつめる。
日本でいえば、
全共闘時代のガチガチな学生運動家が、
今や右翼の論客だったり資本主義の権化みたいな経営者だったり、
あるいは未だに青臭い主義主張を盾に時代に抵抗していたり。
人生に失敗した人、成功した人、いろいろいるけど、
あのころはやっぱり永遠に宝物だよ、というつくりになっている。
ABBAは直接的に「彼らの音楽」ではないかもしれないけれど、
ABBAの音楽を使う理由は単に「歌詞に物語を得た」というだけでなく、
「懐メロによって自分の人生を思い出す」という
人間誰しも持っている回路を全開にする仕掛けでもあるだろう。
つまりこの作品は、
定番の上に定番をなぞり、そこに大ヒット曲という
鉄板ミュージカルなのである。
シェイクスピアでいえば、「真夏の夜の夢」のような大団円もあり、
非常にオーソドックスな劇に仕上げていると思う。
よくできた作品だが、
しかし、
感動したか?といわれると、…うーん…。
舞台は本場のものも劇団四季のものも未見なので、
本物のミュージカル俳優がやったら、あるいは
本物のロックミュージシャンが歌ったら、
また違う印象になるのかもしれないけれど、
メリル・ストリープとピアーズ・ブロスナンの歌を聴きに、
映画館に行きたいとは思わないし。
このキャスティングでやる意味がよくわからなかった。
「かつてイケイケだった女性とその娘の結婚をめぐる
かつての女友達との同窓会」物語としては、
スーザン・サランドン、ゴールディー・ホーン、ジェフリー・ラッシュがやった
「バンガー・シスターズ」のほうが数段上である。
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