19世紀末のウィーン。
ハプスブルグ家が燃え尽きる前の最後の輝きを、妖しく光らせていた時代。
アイゼンハイムというイリュージョニストが人気を博していた。
イリュージョニストとは、
その場でオレンジの木がどんどん育っていくところを見せたり、
死んだ人の霊を見せたり…。
いわゆる手品というより、もっとおどろおどろしい感じです。
でも基本的には「心霊師」ではなく「幻影師」であって、
タネはある、ということを前提に行なっている。
でも、もちろんタネを明かすことはありません。
見る人は、みんなフシギーな体験をして、
中には「死んだ自分の母親と話させてくれ!」などと迫るものもいる。
世の中を騒がす輩として、警察もいつも劇場に警官を配備して、目を光らせている。
(明治時代の自由民権運動のオッペケペーみたいな感じ? ちょっと違うけど)
興味を示した皇太子レオポルドが、婚約者を連れてアイゼンハイムのショーにやってきたところから、
何の権力もない一人の平民が、世界を支配したことさえある権力と
真っ向勝負を挑むこととなる。
それも、イリュージョンで。
この映画「幻影師アイゼンハイム」は、ストーリーを話しちゃうと、見る意味がなくなりますから、筋に触れるのはこの辺でやめましょう。
皇太子の名前は「レオポルド」となっていますが、
あの「ルドルフ」のことでございます。
父王との間にあるくぐもった距離感とか、
取り巻きたちの雰囲気とか、
皇太子の進取の気象とか、いろいろとうかがえます。
また、
レオポルドの若き婚約者ソフィーはハンガリーの貴族出身ということで、
ソフィーが実家に馬で帰るところなどは、
舞台「エンバース」の窓の外の風景をほうふつとさせます。
役者としては、
皇太子役のルーファス・シーウェルが、
レオポルドの神経質でちょっとしたDV的要素を醸し出し、絶品。
狂言回し的な警部役・ポール・ジアマッティの懐深い演技が、
レオポルドとアイゼンハイムの胃がキリキリするほどの対峙をほどよく和らげてくれる。
しかし何といっても主役アイゼンハイム役のエドワード・ノートンがいい。
幼い時のつらい記憶を封印してものすごく冷静に振舞うところ、
恋に急き立てられ、まっしぐらに進んでしまうところ、
たとえ皇太子に向かってでも、ひるまず挑む肝のすわりよう、
そして、
あっと驚くどんでん返し。
この映画そのものが、イリュージョニストによるショウなのかもしれません。
世紀末のウィーンの、アイゼンハイムの劇場で、
あなたもイリュージョンの「タネ」と「仕掛け」にじっと目を凝らしてみてください。
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