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「若者のすべて」(ヴィスコンティ)


若者のすべて」は1960年のイタリア映画(監督ルキノ・ヴィスコンティ)。
物語は、半島最南端の片田舎で「家畜」のような生活を送っていた一家が、
父を失い、大都会ミラノに長兄を頼って一家で越してくるところから始まる。
日本と同じように、敗戦が社会を一変させているけれど、
人間は急に別人になれるはずもない。
戦前の精神を引きずりながら敗戦後を生き抜く庶民の苦悩。
願望はあっても、「家族」を捨てて「個人」になりきれない若者の姿が描かれている。
親を頂点とした大家族主義があり、家族がすべてに優先する。
女は「嫁」であり、「母」になるまで無力だ。
戦争を知らず、男女同権の民主主義で育った私には、
共感しにくい話の連続。
長兄ヴィチェンツァは、
せっかくミラノで得た良縁を、
「家族を捨てる気ね?」なんて母につっかかられる。
次兄シモーネは、
まじめで、家族思いの弟ロッコを食いものにする。
仕事場に行っては無心をしたり、そこの物をくすねたり。
自分と付き合っていた時は自堕落な女だったナディアが、
ロッコと愛し合うようになって立ち直ろうとしていることも
気に入らない。
ひどい仕打ちを受け続けながら、ロッコは兄を憎みきれない。
「兄貴のことは殴れない」
「兄貴を救えるのはナディア、君だけだ」
何かといえば、「ママが心配するから」「僕が悪いんだ」
あんたの、一体どこが悪いの?
若きアラン・ドロンにチャチャを入れたいくらい、
ロッコの態度はもどかしい。
事件を起して戻ってきたシモーネにロッコは言う。
「話せ。俺だけに話せ!」
そして、兄のために何ができるかを算段する。
わからないことだらけだったこの映画を一瞬にして理解させたのは、
なかにし礼だった。
なかにし礼と実兄との壮絶な葛藤は、
直木賞にもノミネートされた「兄弟」という本にもなっており、
有名な話である。
TV番組のインタビュー中、彼はこう言い放った。
「死んでくれて、本当に万歳だ。今まで僕に兄がしてくれた
 どんなことも帳消しにするすばらしいことだ。」
そして、こうつけ加えた。
「僕ほど兄に尽くした人間じゃなくちゃ、こうは言ってはならない」
なかにし礼は、戦後北海道でニシン漁の寒村にいた。
苦しい生活だったが、ニシンが浜一面に打ち上げられた光景は、
美しい思い出として目に焼きつき、名曲「石狩挽歌」を生む。
ロッコも、「いつか故郷に帰りたい」と望郷を胸に生きていた。
そして、
なかにし礼が兄と絶縁したのは、
母親が亡くなった後である。

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