今上野の美術展といえば、レオナルド・ダ・ビンチの「受胎告知」に人気が殺到しているようです。
国立博物館の前は長蛇の列のようで、「3時間待った」という話も聞きました。
でも、上野の森には、ほかにも美術館や博物館がたくさんある。
動物園の正門入り口から右へ右へと入ったところにある東京都美術館では
「ロシア絵画の神髄」が開催されていて、
こちらはそれほどの混雑もなく、素晴らしい作品の数々を、ゆっくりと鑑賞できます。
油彩画を中心に、100点以上の出展という規模の大きさもさることながら、
一つひとつの作品に力があります。
対象は18世紀後半から20世紀初頭まで。
ニコライ一世の結婚式や肖像画を筆頭とした貴族の肖像画の華やかさ、
農民やその子どもたちの、生き生きとした生活ぶり、
孤児、物乞いの悲惨な暮らし、
そしてロシアの大地に根ざす自然の営み・・・・・・。
どの前に立っても、しばらくは動けません。
今でいえば記念写真の代わりに描かれた肖像画の、それこそ生きているような表情。
「ルジェフスカヤとダヴィドワの肖像」(レヴィツキー)は、
中学1年生と2年生の姉妹のかわいらしいツーショット。
貴族の通う女学院の制服(といってもドレス!)を来て幸せそうに華やいでいる。
「若い庭師」というキプレンスキーの作品は、私のお気に入り。
仕事の合間か、物憂げに岩にもたれた横顔の頬のあたりに、
そこだけスポットライトがあたったように光り輝く。
夢見るように開かれた美しい瞳。吸い込まれそうだ。
ものすごく近くに寄っても、「これ、絵?」って疑ってしまうような緻密な風景画の数々。
シーシキンの「冬」「針葉樹林、晴れの日」もいいし、
エンドグロフの「春の訪れ」も、少し離れてみると、鈍色の雪景色の向こうに、
薄ピンクと黄金の光が浮き出して見えて、強い印象を受ける。
スホデルスキーの「村の昼間」は、まるで精密なジオラマ!
絵というよりは、「額縁」という窓を通して外の景色を眺めているようだ。
強い日差しのもと、一仕事終えて皆が休む静かな農村の昼下がり。
昼寝しているブタが、その周りにいるニワトリが、すぐにでも動きそうな勢い。
アイゾフスキーの「月夜」、クインジの「森に注ぐ月の光、冬」も幻想的。
一つひとつ紹介していたら、もう切りがない。
自分の目でこの才能の競演を確かめてほしい。
最後に。
私がびっくりしたのはレーピンの「何と言う広がりだ!」
ナイアガラの滝みたいな激しい流れの中、その水が崩れ落ちるあたりに、
ロシアの若い兵士とドレス姿の女性がはしゃいで立っている。
大きな大きな絵の右上に、2人は描かれ、あとのほとんどは「荒くれた水」である。
フィンランド湾を旅したレーピンが霊感を得て描いたというこの絵は、
同時代の「写実性」の中にあって、ひときわ異彩を放っている。
レーピンの他の作品と比べても、まったく違う。
一人の芸術家の中で、革命が起こった、そんな瞬間が凝縮されている。
忘れ難い一枚だ。
開催は7月8日まで。
行列を無条件に避ける傾向のある方、上野に行ったら、絶対こちらへ。
「受胎告知」を見た人も、ぜひこちらにも寄ってみてください。
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