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「自画像の証言」

「金刀比羅宮 書院の美」を見終わって、藝大キャンパスの入り口あたりをフラフラしていたら、
「陳列館」という白い壁の古い建物があった。
自画像の証言」という催し物を、なんと無料で開いているということがわかり、
一も二もなくそちらの方へ足を向けた。
藝大創立120周年を記念してのこの企画、
もしかしたら、「金刀比羅宮」より衝撃は強かったかも。
1898年から続いている「卒業制作には自画像を描く」という伝統を作ったのは、
黒田清輝。
その黒田の自画像から始まって、昨年卒業した人の自画像まで、
学校に残されている約4800点から160点が展示されている。
西洋に見られる自画像然としたスタンダードなものから、
俳優気取り?のブロマイド的なもの、
写実あり、印象派あり、キュービズムあり、写真あり。
自画像なのに二人描いている人、
自画像に自分を二人描いている人、
百面相をならべている人、
板切れや布切れや携帯電話を「これボクの自画像」と提出している人、
そりゃあバラエティに富んでいる。
「これがボク」と、幼稚園の時から書いている自分像を
マジックでキュキュっと描いておしまいの人もいる。
でも、彼が今もそのキャラクターを使って制作を続けていると聞くと、
なるほど、自画像とはアイデンティティなんだな、と合点がいくというもの。
私が一番好きだったのは、
蛇の目の番傘を開いた前にロダンの考える男よろしく片手をアゴにつけ、
任侠のような着流しで上目使いにこちらを覗いている一枚。
明治44年、佐野貞雄の作品。
そして、実物の油彩カンバスはなかったけれど、布にプリントして飾ってあった
佐伯祐三の自画像(大正12年)。
同時代の画家と比べても、全体を見ても、
一人だけ色彩がまったく違う。
実に目を引く一枚だ。
目を引くといえば、平成18年の山本磨理の作品も忘れがたい。
画風はミュシャのよう。憂いをたたえた顔がまっすぐにこちらを見ている。
しかし、その顔の周り、そして絵の全体が布のような、清流のような、白い流れで覆い尽くされている。
花言葉「移りゆく日々」のワレモコウと「君を忘れない」のシオンを配して、
彼女の藝大受験の真っ最中に死んでしまった恋人をこの世に残そうとしたのだという。
自画像を描きつつ、筆先が残したものは、実は恋人だった。
1枚1枚に、そんなストーリーがあることは、後からパンフレットで知るわけだけれど、
白くて高くて陽の光りが差し込む陳列館で百数十枚の「彼ら」と向き合っていると、
詳細など何も知らなくても、絵そのものが語りかけてくる。
自画像とは「自分を見ながら自分を描く」のだから、
ほとんどの作品はこちらを見ている。
見透かされているような、睨みつけられているような感じもするけれど、
つまりは、彼らはこの自分の「目」とずっと対峙しながら筆を進めたわけで、
この眼力に耐えうる「自己」を確立できていなければ、
自画像というのは、描ききることが難しいものなのだろうと感じた。
この企画はNHKも主催に名を連ねていて、
8月15日(BS)ハイビジョン、8月19日(教育テレビ)にて関連番組が放送されている。
8月23日に、ハイビジョンの方では再放送があるようだ。
絵に描かれた画学生の一人ひとりの人生を探り当てるのは、とても大変だったようである。
藝大が、卒業制作としての自画像をすべて買い上げるようになったのは、1902年からだという。
全精力をかけて自分自身と向き合って描き上げたとしても、それは手元には残らない。
そして今回、こういう企画がなければ、ただ大学の資料室の片隅に置かれているだけだったかも。
そんな4800枚に光を当てたと思うと、この企画の意義深さにも心を致す。
そして100年前のものも展示できたのは、修復技術の向上にもよる。
まさに、120周年にふさわしい展覧会。
9月17日までなので、ぜひおでかけください。
上野にいらした折は、ちょっと足をのばして、東京藝術大学陳列館まで。

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