テレビから流れる安全地帯の「蒼いバラ」を聞いていた。
これまでは彼の歌い方や楽曲のよさ、印象的なメロディライン、
それに加えて「安全地帯復活」の余韻に浸りすぎ、
あまりじっくりと歌詞に耳を傾けてこなかった。
「蒼いバラ」は作曲だけでなく、作詞も玉置浩二である。
ミュージシャンは、どんなときに作詞するのだろう?
どんなことをモチーフに詩を書くのだろう?
そんなことを考えながら、
テレビ画面に流れる歌詞のテロップを追った。
というのも、
私は詩作が苦手なのである。
小学校のころ、
「詩を書きなさい」といわれて、どうしたか。
文をいくつもの行に散らして書いた。
それを、ゆっくり読んだ。
「私は朝、牛乳を飲んだ。おいしかった」であっても、
「私は、
朝、
牛乳を飲んだ。
おいしかった」と行を分け、
NHKの番組「プロジェクトX」のナレーションばりに読めば、
それで詩のようなかっこうはつく。
でも、同じクラスの男の子に言われた。
「中身は普通の文章と変わらないじゃん。
そんなの、詩じゃないよ」
男の子の言うことは当たっていた。
詩は形じゃない。
だって、散文を読んでも「詩的」だと思うことがあるもの。
じゃあ、詩って何?
詩と普通の文と、何が違うの?
私はもう小学生じゃないし、
今までにいろいろな詩や、詩的な文章に触れてきたし、
まがりなりにもものかきを名乗って日々文章を書いている。
それでもまだ、詩とは何か、本当のところはわからない。
この「蒼いバラ」を聴きながら、
その詩的な世界に震え上がる思いである。
*以下、歌詞を引用させてもらいます。
玉置さんの著作権を守るために、安易なコピペはご遠慮ください。
*詩と散文との本当に違いを検証するための試みなので、
敢えて改行をしていません。
実際の作品では、スペースか/のところで改行されています。
*自分が耳で聴いて理解する部分と、詩として理解する部分の比較のために、
音楽としてのフレーズ(一つのメロディのかたまり)が終わるところに
「/」を入れています。
最初のフレーズ=起
「誰も触れられない 蒼いバラ/月灯り浴びて 咲いている」
ひっそりと窓辺に咲いている1輪のバラに
スポットライトが当たっている。
そういうものを見ながら、見たものを描写している感じ。
続くフレーズ=承
「甘い香りがして 降り出した/銀色の雨に濡れるから」
歌だけを追うと「甘い香りがして降り出した」とひとくくりに聴いていたけれど、
じっくり聴いてみると
「甘い香り」がしたのはバラで、「降り出した」のは銀色の雨と知る。
さきほどのイメージに雨がかぶる。
きらきらした雨。雨は降っているが、「月灯り」も健在。
だから雨は「銀色」となる。
チェンジ・オブ・ペース=転
「星に愛を願う恋人たちは」
まったく別のシーンに、私たちはリープさせられる。
それまで続いていた翳のある短調(マイナー)のメロディが、
一転、開放的な長調(メジャー)に変わる。
夜空には満天の星。
雨もバラも、そこにはない。
愛しあう恋人たちの寄り添った顔にあふれる、優しい微笑み。
この世界観の見事な転換が「詩」なのかな、と頭をよぎる。
バラ、月、雨、と静物画であり写生だったものが、
人間が出てくることでドラマが見え出すのだ。
人の息遣い。男女が醸す愛の空気。
「サヨナラが聴こえないから」
それまでなだらかな斜面を上るように盛り上げてきたメロディが
ここで一気に頂点の音を迎える。
一瞬メジャーになった曲調は、その頂点を突き、
そして、またマイナーへと戻っていく。
フュージョン=結
「哀しいその瞳を見つめていたんだ/離れたくなくて…Wow…/
さみしいその花びらに口づけた/何もいわないで…何も…」
「哀しい」「さみしい」はマイナー、
「見つめていた」「口づけした」はメジャー、
「離れたくなくて」「何もいわないで」はマイナー。
言葉の持つ感情と、音が生み出すそれとがぴったりとくっついて、
私たちを自然に感性の海へと押し出してくれる。
本当によくできた歌だ、とつくづく感心。
さて、歌詞の世界に戻ろう。
「哀しいその瞳」は、前を受けて恋人たちの女性の瞳で、
「見つめていた」のは、男性のほう…というのが
曲を聴いている私の最初の脳内イメージだった。
ところが
「さみしいその花びら」がやってきたときに、
この女性と、蒼いバラが唐突に二重写しとなって迫ってきたのだ。
女性は窓辺にたたずんで、
月灯りを浴びてながら
さみしく誰かを待っていて
サヨナラにおびえている。
満天の星の空の下、
笑顔だった二人は遠い思い出で、
そのときは聞こえなかったはずのサヨナラに
今はおびえている、
さみしい横顔の女性。
では、「その花びら」とは何?
「口づけた」のは、誰?
うーむ、ここまでくると、
「バラ」がある特定のものの隠喩であることを、考えずにはいられません。
単に「女性」ではなく、もっと部分的な…ハイ。
ヒジョーに意味深な歌詞であることがうかがわれます。
ドキっとするほどエロティック。
「バラ」が銀色の雨に「濡れる」わけで、……ハイ。
別れを予感しながらも、男を待たずにはいられない女。
もう終わりだと思いつつ、また来てしまった男。
二人とも「そのこと」は「何もいわない」で、また一夜、
褥をともにするのでした。
ここでもう一回、最初に戻ってみましょう。
誰も触れられない 蒼いバラ 月灯り浴びて 咲いている
甘い香りがして 降り出した 銀色の雨に濡れるから
蒼いバラは、最初から静物ではなかったですね。
ストーリーを持ったバラでした。
「誰にも触れられない」バラ。
孤独だということでしょうか。
嫌われているということでしょうか。
恐ろしいということでしょうか。
神聖だということでしょうか。
いいえ、
「触れてほしい」と瞳で、体で訴えながら、
何も言わずにたたずむバラなのでした。
その哀しい瞳をみつめながら、
触れたいのにもう触れてはいけないバラに想いを告げる、
男のラブレターなのでした。
そして
この曲のすごいところは、
2番が1番の心象を引き継いで発展するところです。
それについては、また明日。
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