鎌田敏夫は、その代表作を挙げるのにも選べないほどたくさんの名作を書いている。
その中でも「ニューヨーク恋物語」(1988)は、斬新で、奥深く、そしておしゃれな作品だった。
岸本加代子演じる明子が、婚約を破棄されて、逃げるようにニューヨークに来る。
ころがりこんだ先は、従姉の里美(桜田淳子)のアパート。
里美のルームメイトの美姫と、女3人の同居が始まる。
里美は株のディーラーをやっているがうだつがあがらない。
何かにつけて攻撃的で、
ニューヨークではこれくらい自己主張が強くなければやっていけないんだ、と思わせる緊迫感がある。
幼稚園の先生をしている坂入(真田広之)に慕われていると気づきながら、
そのやさしさが気に食わない。
―何でもっと上昇志向じゃないんだ?―
美姫は無口で影のあるバーテンダーに男に恋をしている。
その男こそ、田村正和扮する田嶋。
なかなか振り向いてもらえないが、自分を慕う小池(柳葉敏郎)のことなどまったく眼中にない。
大体、八百屋やってる風来坊なんて、夢も生活力もないじゃん。
しかし、田嶋に生活力があるわけでもない。
ヤクザな仕事に手を染めながら、その日その日を暮していく田嶋は、やがて酒に溺れていく。
ニューヨークへは、自分を探すためにやってくる。
ニューヨークでは、いつも攻めていなければ、生きていけない。
ニューヨークでは、気を抜くとすぐに落ちぶれる。
ニューヨークでは、自分を持っていなければ、ただ巻き込まれるだけ。
防衛本能のかたまりで、自分に触れようとするものすべてを拒絶していた明子は
一旦日本へ帰る。
そして、今度は「仕事で」ニューヨークに帰ってくるところから、
この物語は第二ラウンドに入る。
この話のすごいところは、
後半、一気に人間関係が変化することである。
貧しくとも希望に溢れていた若者たちは、
欲しいものを手に入れられたのか?
「本当の自分」と向かい合ったかと思えば、今度は必死になって逃れようとする主人公たち。
時にヒステリックに、浮き沈みを繰り返す。
大きく深く、傷口をえぐられながら、
しかし、そこまでしなければ、彼らは自分が本当に欲しかったものに気づけないのだ。
愚かで愛すべき者よ。
彼らの「生きること」へのひたむきさが、私を釘付けにした。
ニューヨークは、明子をどのように変えたのか。
里美を、美姫を、そして田嶋をどう変えたのか。
ファッションに、住む家に、表情に、
その時の立場が如実に表れているところがすごい。
説明など何もなくても、彼らの変化がわかる。
あれほどおどおどして、意志薄弱、何の魅力もないような明子が、
いきなり自分を主張し始める。
友人と男を争い、
その男を振り、
そして母のような瞳で田嶋を包み、
ビルの屋上で田嶋の髪を洗う。
空港ロビーで、
真っ赤なバラの花びらの中、田嶋と抱き合う。
彼らとともにニューヨークを生きて、
彼らとともに最終回を迎える。
哀しいけれど、祝福したいような、
さびしいけれど、旅立ちの潔さも感じる
そんなカタルシスのシャワーを浴びる11回。
主題歌は井上陽水の「リバーサイド・ホテル」。
田村正和14年ぶりの映画主演、とかで、「ラスト・ラヴ」が大々的に宣伝されている。
この映画のスタッフには、
かつてのテレビドラマ「ニューヨーク恋物語」に関わった人が多い。
ニューヨークをヨボヨボ歩くコート姿の田村は、
たしかにあの「ニューヨーク恋物語」を彷彿とさせる。
でも、今度の話は、鎌田敏夫の脚本ではない。
そこが、私にはちょっと寂しいのだ。
「ニューヨーク恋物語」は、6/27からCSフジで放送するそうです。
うち、CSないんだよねー(泣)。
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