蜷川幸雄は寺島しのぶや松たか子を語るとき、
「歌舞伎の家に生まれながら、歌舞伎ができない女性に生まれた
負のエネルギーをぶつけているからいい女優なのだ」という表現をする。
まして、
「歌舞伎を継ぐべき男性」に生まれながら、その歌舞伎から拒否されている
香川照之という男をや。
そのことは、
分かっているつもりでいた。
25歳のときの、辛い出来事も知っていた。
でも
香川さんが、
あそこまで「歌舞伎」にこだわっているということは
知らなんだ。
「歌舞伎に対して申し訳ない」そして
「子どもにとって申し訳ない」と。
自分という人間が「血」を持ちながら「血筋」を絶やしている。
そう思っているという哀しい人生。
それは、決して自分のせいではないというのに。
彼がそういうことを口にし、
笑顔で亀次郎さんと話せるようになるまでに、
何十年という時間が必要だったのだろう。
それにしても。
これは歌舞伎界から拒否られた1人の女性の、
図らずも成し遂げられてしまった一種の復讐だね。
皮肉たっぷりの復讐。
正式に結婚して、男子を産みながら扉を閉ざされた女は
息子に日本舞踊を習わせるのではなく、
東大に入れたんだから。
今度は彼女が、「歌舞伎」を拒否したことになる。
あれほどの男がもし、澤瀉屋の後継者となっていたら、
歌舞伎界はまた、違ったものになっていたかもしれない。
でも、
彼の鬼気迫る演技の源は「拒否」から生じているのだから
そんな「たられば」の話に意味はない。
私たちはただ、
香川照之という俳優を得たという幸せに、感謝するのみだ。
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