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市村正親、教育テレビで「蜘蛛の糸」

先週、久しぶりに家に1日いたときに、
何げなくつけていたテレビ。
「おはなしのくに」だったかな? 教育テレビの子ども番組です。
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」をやる、というので、
ああ、人形劇とか影絵ね、と思っていたら、
テロップに「市村正親」の名が!
市村さんが、朗読のような形で、お話を語ってきかせる、という趣向でした。
極楽で、ある朝仏様が散歩をしていて、蓮の池から下を見下ろすと、
地獄の光景が見えました。…から始まるこのお話を、
まず、真っ白の裾の長い胴衣を着て、市村さんが語りだします。
いわゆる「ト書き」の部分を、まるで仏様になったようなやさしい語り口で。
照明も明るく、足元はドライアイスみたいのでモクモクと煙が立っています。
次に、今度は「血の池で苦しむ男」。
着ているものは同じだけれど、照明が赤黒くなり、音楽も変わり、
それだけで「極楽」は消え、「地獄」が出現。
何といっても、市村さんの形相が変わる。声も変わる。
市村さん、やっぱりこういうクセのある役のほうが、似合います。
生き生きとセリフを語っていきます。
「泥棒だったので、蜘蛛の糸のようなものをスルスルと上っていくのは、慣れているのです」
とかいいつつ、パントマイムのようにして、体を動かしながら。
「蜘蛛の糸」のあらすじは、こうです。
今は地獄で苦しんでいる泥棒だが、生前、たった一度、蜘蛛を踏み潰そうとしてとどまった。
その優しさを覚えていた仏様が、
蜘蛛の糸を垂らして、泥棒が助かる道をつけてあげる。
だが、たくさんの罪びとたちが、自分のあとを追いかけて蜘蛛の糸を上ってきた。
泥棒が、その者たちを振り切ろうとしたその時、
糸はぷっつりと切れてしまい、男は地獄へとまっさかさまに墜ちていく。
最後が「仏様は悲しそうな顔をしました」みたいに終るんですけど、
まあ、あさましい男は、結局自分のことしか考えないから、しかたないねー、
みたいなのがテーマだとされております。
けれど、
今回市村さんの語りを聞いていたら、
またちがった感触を得ました。
血の池で浮いたり沈んだりしていた男は、すでに地獄もあちこち引き回され、
希望というものを失っておりました。
もう、痛いとか、苦しいとか、叫ぶこともなくなって、
それは彼だけではなく、他の罪びとたちもそうだったのです。
光のない真っ暗闇に、聞こえるのは、ため息だけ。
そんなとき、上から糸が垂れてくる。
必死にしがみつき、一生けんめい上って上って、
随分上まで来た、これなら、地獄から本当に抜け出せるかもしれない、
と、思うのです。
助かりたい、と思った途端、それを邪魔するやつらのことも見えてくる。
自分ひとりでももたないかもしれない細い蜘蛛の糸に
何十、何百という人間がすずなりになっているのを見れば、
誰でも危機感を覚えるでしょう。
しかし
「来るなー!」と言った途端、糸は男のすぐ上で、ぷつりと切れてしまうのでした。
それを見ていた仏様は、
一瞬悲しい顔をするのですが、また何事もなかったように、散歩に戻っていってしまいます。
仏様にとって、
こんなことはどうでもいいことだったのかも。
朝飯前の、ちょっとした出来心だったのかも。
そんな簡単に、人の生き死にを左右するようなことをしていいのかね?
希望という希望を捨てて、なんとか地獄の日々をやり過ごそうと無感覚でいようとしている者に
やさしくして、目の前を開かせておいて、その上で突き放すのは、タチの悪い遊びです。
あなたを信じた人が、あまりに可哀そう。
結局、極楽という守られたところで、戯れに人を「助けてやろう」と思いついただけなのか?
最後まで責任持たないアナタは、無責任!!!
…と、仏様に抗議したいような気持ちがフツフツとわいてしまうほど、
地獄の住人に肩入れしたくなるお話になっておりました。
「仏様」っていうから、マチガイがないと思い込んじゃうけど、
「極楽の住人」って置き換えると、いろいろ違って考えられる。
私たちも、
気づかないうちに、この仏様みたいなこと、してないかしら?
「ちょっと悲しそうな顔をしたけれど、すぐに何事もなかったようにいつもの散歩に戻る」
……ありそうです。

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