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一年の計(2)虫明亜呂無になる

さて、
私の今年の大目標は、
映画評論、演劇評論、書評など、題材についての評論をもう一歩深めて、
もう少し普遍的な文章に紡ぎあげ、エッセイに仕上げていくことです。
題して「虫明亜呂無になる」。
虫明亜呂無(むしあけ・あろむ)さんというのは、
かつて日刊スポーツやさまざまな雑誌に、
映画や舞台、本、そして馬のことなど幅広い題材について寄稿していた
博学のエッセイストです。
私が彼を知ったのは高校生のとき。
当時私はラジオのFM東京で、
「渡辺貞夫のマイ・ディア・ライフ」という番組を毎週のように聞いていました。
この番組のスポンサーは資生堂で、
番組の半ばで必ず「虫明亜呂無のブラバス・エッセイ」というCMを流したのです。
虫明氏本人が自分のエッセイを朗読し、
その後、番組のMCもやっていた小林勝也の声で
「男の○○、資生堂・ブラバス」というのが入り、完結するCMでした。
虫明氏の、一本調子ながら穏やかで遠景を望むような声は、
バックに流れるナベサダの物悲しいサックスの音色とともに
今も私の耳に残っています。
そのころから、彼の文章を好きだとは思っていたけれど、
彼の著作をちゃんと読むことはないまま、この歳まで来てしまいました。
最近になって、本格的にエッセイの勉強をしたい、
そのためには、いいエッセイ、手本になるエッセイをたくさん読まねば、
と決意したときに思い出したのが
彼のことでした。
折りしも、
新たに編まれた彼のエッセイ集の第二弾が発売されたところだったので、
すぐさま買ったと同時に、
以前の本も、図書館から借りました。
読めば読むほど、
なんで今まで読まなかったんだろう??と不思議なくらいです。
私の知識量が、ようやく彼に追いついた、ということでしょうか。
書いてある内容もそうですが、
「たとえば」を多用する文章のリズムなど、
響きあうものを感じます。
映画や演劇など、エンタメ系のものについて、
あるいは愛や性そのものついて、
タテ糸には、直観や本能や、そうした感覚的なものを置きながら、
文学や、絵画や、歴史や、そういうものを横糸にして語っていくところが、
私にはとてもなじむのです。

女の足指と電話機

仮面の女と愛の輪廻
エッセイストの大家といえば、まず小林秀雄が頭に浮かびますよね。
小林さんのことももちろん尊敬しています。
若いときは、難しすぎてよくわからないことも多かったですが、
最近読み直すと、その引き出しの多さと文化文明についての造詣の深さに
なるほど~、そこを言ってるのね、と感服すること多し。
でも、
「小林秀雄になりたい」か、と言われると、
(もちろん、なれるわけもないのは承知のうえで、ですが)
ちょっとテイストが違うかな~、と思うのでした。
もちろん、いいところは自分の中に取り込みたいですけど、
なんというか、エリート臭っていうんでしょうかね(失礼)、
あまりにすべてをわかりすぎている前提で始まっている、というか、
東大型? 理屈が勝ちすぎて、
こちらのコンプレックスもあるのでしょうが、上から目線の感じが、ちょっと…。
その点、
虫明さんはもうすこし柔らかいというか、身近な感じです。
そうそう、私もそう思う!と
読んでいて文章に没入することが、非常に多いです。
流れるような描写、
「たとえば」で始まる具体的な比喩、
ふとさしこまれる絵画の名前…。
こんなふうに書けたらいいな、
こんなことを知っていたらいいな、って
体が熱くなります。
大人物である点では小林秀雄と同じだし、
舞台評や映画評、人物評にしても、各界有名人と親交深い上でのものだし、
親近感を覚えるとか共通点があるなどと言うのははおこがましいのは百も承知ですが、
目標にするのは差し支えないですよね。
彼は、ブラバス・エッセイをやっていたとき51歳でした。
私が今からがんばって、どこまで行けるか非常に前途多難でありますが、
まずは一歩から。
いい文章を届けられるよう、精進したいと思います。

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