加藤周一さんが亡くなった。
享年89歳。
加藤周一さんの著作に出会ったのは、高校生のときだ。
友人から「羊の歌」「羊の歌(続)」を紹介された。
ヨーロッパの文化と精神を身につけ、
日本人としては珍しいほどの個人主義を掲げる加藤氏。
彼のいう個人主義とは、
単なる自己主張のカタマリといった低次元のものではなく、
一人の人間として一人で立つことの潔さであり、
孤独であり、孤高であり、
世間の風を真っ向から受けても揺るぐことなく
全世界を敵にまわしても冷静に、論理的に、持論を主張し続けることである。
「少数意見」の中にこそ、民主主義の真髄が隠されていることは、
やはり先ごろ亡くなった筑紫哲也氏も口にしていた。
大きな声で唱えられると、そちらのほうになびいてしまいがちな、私たち。
知り合いや利害関係のある人に、反対意見がいいにくい、私たち。
いつまでもこだわって周りに合わせられないと、ヒンシュクを買う共同体。
21世紀になっても、
「空気読めよ」が「KY」になって生き続ける社会だ。
大きな戦争を経て世の中の体制ががらりと変わってもなお、
私たちの精神性は、ちっとも変わっていないことに気づかされる。
一人でも叫び続けること。
その痛さを誇りに思うこと。
彼の著作を読み倒したわけでもない。
「羊の歌」と「夕陽妄語」しかしらずに何をほざくかと思われてしまうかもしれない。
しかし、
そこに加藤周一がいてペンをとり、世の中に何かを申し立てている、
その存在感だけで、
彼は「かつてあった戦争」と「その戦争を許した日本人の精神構造」を私たちに示し、
知らぬ間に「いつか来た道」へ逆戻りしないよう警鐘を鳴らしてくれた。
日本語を愛し、日本文学を愛し、日本を愛し、
それゆえに日本を叱咤し続けた一人の知識人の死を惜しむ。
合掌
夕陽妄語(8)
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