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満願の旅立ち

仕事で大変お世話になった方が、
62歳という若さで亡くなった。
今日はその告別式に行ってきた。
昨日のお通夜には400人以上の人が参列したとのこと、
頼りがいがあり、人あたりは優しく、物腰は柔らかく、でも意見は鋭く。
誰からも愛され、尊敬される女性だったからこそだろう。
人は自分の寿命をどういうふうに考えるものなのだろうか。
「人間というものは、他人は死ぬが自分は死なないと思っている」という人がいた。
その証拠に、遺産相続の話とか葬儀の話とか、そういう話をしないではないか、と。
逆説的で面白い意見だな、と思うが、
ふつうは自分の近親者の死んだ歳を強く意識するようだ。
中井貴一は自分の父親(俳優の佐田啓二)より生きられると思えず、
38歳以上の自分の人生というものを考えられなかったという。
(だからそれまでは結婚もしなかった、というのは有名な話)
父の死んだ年齢を超えた最初の朝、寝床のなかで自分が生きていることを
ゆっくり、ゆっくり噛みしめたという。
「そこから、私の第二の人生が始まった」とも語っている。
私の夫の兄は24歳で亡くなっており、
だから夫は25歳の誕生日をものすごく複雑な気持ちで迎えた。
「これからは、兄貴より俺のほうが上になるんだ」と彼は言った。
私はといえば、
父が64歳で亡くなり、その母つまり祖母は68歳で亡くなっている。
この父と祖母と私は、体質も顔もよく似ている。
そういうことが気になるのか、
私は自分の寿命の区切りを、昔から68歳と決めている。
68歳まではなんとしても生きるぞ、と思っている。
私にとってそれより前に死ぬことは、「早死に」である。
そのあとは、あるかないかわからない。
だから、
やるたいことは68歳までにしておきたい、と漠とした決意を持っている。
父というベターハーフを亡くした直後、
母は眠れなくなり、
自分もすぐに死ぬかもしれない、と65歳を待たずに年金を受給した。
でも、それからもう20年も生きている。
その20年、父も生きていたら、いろいろなことを聞くことができたな、と
私はいつも臍を噛む。
でも、
父にとって64歳の旅立ちは満願であったと思うことにしている。
戦争をくぐりぬけ、もうちょっと戦争が長引けば、
特攻隊で海のもくずと消えるところだったのに、
生きて終戦を迎え、大学に入り、映画会社に入り、結婚し、子どもをもうけ、
会社が倒産したりいろいろあったけれど
晩年は自分らしい職業について二人の子どもの結婚も見届けた。
持病に苦しんだ人生だったが死ぬときはあっけなく、あまり苦しまず、
それもよかったんじゃないか、と思う。
今日お別れした彼女も、
家族にとっては辛いだろうし、
病気に苦しんだ時間はないほうがよかっただろうけれど、
彼女らしい人生を満願で終わって旅立ったと私は思いたい。
きれいな死に顔だった。満足しているように見えた。
68歳はまだまだ先に思えるが、
62歳はけっこう近い。
今日は自分の死についても、たくさん考えるところがあった。
彼女らしい葬儀を家族が執り行ったことも影響している。
愛されていたのだな、とつくづく感じた。
そして
私たちが彼女のことを忘れない限り、
彼女は私たちとともにいる。
だから、さびしくはない。そう思おうと思う。合掌

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