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「パリ・オペラ座のすべて」

東京・渋谷のル・シネマで前売り券を買ったものの、
連日大盛況でおよそ2ヶ月。
最初は2時間くらい前に行かないと座れないとか、
本当によく入っていたらしい。
「○月○旬までは確実にやっています」という
上映期間もどんどん延びてはいたけれど、
もう少し空いたら、などと言っているうちに
そろそろやぱいんじゃないか?…ということで、
大雨の日でしたが行ってまいりました。
世界のバレエ団を扱ったドキュメンタリーは
これまでもいろいろあって、
同じオペラ座でも「エトワール」という違う映画もありましたが、
私は
今回の「パリ・オペラ座のすべて」が一番肌にあったかな、と思う。
敢えて楽屋オチ的なネタを排したか、
ダンサーのプライベートな生活とか、そういうものは全くなし。
ただただバレエのために力を注ぐ人、人、人。
それはダンサーだけでなく、
スタッフも、経営者も、オーケストラも。
一人ひとりのたゆまぬ努力が紡ぎ上がっていくのを、
「オペラ座」という建物が静かに見守っていて、
これまでの人々と同様、
今の人々の時間もまた、この建物の中に保存されていく。
そんな雰囲気が映像から読み取れました。
たくさんのバレエの練習風景がふんだんに使われているのが、
とてもうれしい。
「くるみ割り人形」「パキータ」といったクラシックの定番もあれば、
「ジェニュス」「メディアの家」などのコンテンポラリーも。
振付家とダンサーが練習の中で「これだ」という動きをつかんでいく
その過程は正に真剣勝負。
とくに往年の名ダンサー、ローラン・イレールが
素晴らしい比喩や論理でバレエが表そうとしている世界を語るところは、
心から感動する。
特にギリシア悲劇「王女メディア」をバレエ化した「メディアの夢」で、
メディアが子どもを殺す心情がつかめずに迷うエミリーに向かって、
「すべてをわかろうとしないでいい。
 解釈は観る人に預けていいのだ。
 それに、実際に舞台に出て、紅い血まみれになれば、
 そのときにわかることもある。
 今すべてをわかろうとしないでいい」
と話すところは、舞台芸術が持つ力を知る者、
板の上に神が下りてくる瞬間を経験した者だから言える説得力にあふれていた。
私はオペラ座のダンサーがコンテンポラリーを踊ると
体の使い方に本当に感心してしまう。
今回は、「ジェニュス」を踊ったダンサーのなかでも
マチアス・エイマンとマリ=アニエス・ジロに目がクギ付け。
特にジロは、さすがエトワールっていうか、
体の動きの一つひとつの意味をすべて理解しているというか、
その上をいっているというか…リハーサルで完全ノックアウト。
クラシックでの見せ場のオーラはもちろんのことだが、
コンテンポラリーで見せる凄味は、また格別。
芸術監督のブリジット・ルフェーブルが
コンテンポラリーの振付家にダンサーを選ぶ際、
こんなふうに助言する。
「エトワールを選ぶなら、選んだだけの仕事をして。
 レーシングカーを使って時速10キロの走行は許されない。
 エトワールはそれだけの仕事、それ以上の仕事をする。
 だからエトワールなの」
エトワールって、ほかのバレエ団で行ったらプリンシパルでしょ、
などと、軽く考えていたこともあるけれど、
エトワールにだけ「自分が何を踊るか決める権限」がある、という
その理由がわかるような気がした。
彼らは、芸術、なんですね。
かくいうワタクシ、
まだ一度もオペラ座に足を踏み入れたことがございません。
ガルニエ宮でバレエを観ることが、
目下の夢でございます。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方で、
オペラ座に中にある恐ろしいまでの階級社会にも震撼。
一人25000ドルのツアーを「大口寄付のアメリカ人」に売り込み、
「リーマンブラザーズ」の名前もちらほら。
スタッフはみな白人で、
ただ、
壁を塗ったり、ゴミを拾ったりする人は、黒人。
今さらながら、
「東洋人として初めて英国ロイヤルバレエ団に入団」という
熊川哲也の破った壁の高さ、
その壁を破ろうとしたアンソニー・ダウエルの志の高さを
思わずにはいられなかった。

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