ロパートキナの「瀕死の白鳥」が見たくて、
この日のガラのチケットを取りました。
その「瀕死の白鳥」。
サン・サーンスの名曲に乗って、
真っ暗なステージに下手から背を向けたロパートキナが登場する。
暗闇に、ほの白い、幻影のような白鳥。
私はオペラグラスを持っていたけれど、
敢えて細部を見ようという気持ちが起きなかった。
その漆黒の背景と一緒に、
白い幻想を味わいたかったから。
これといって大きなドラマがあるわけではない。
すさまじい喜怒哀楽も、そこにはない。
でも、なんて張り詰めた時間。
なんて濃密な空間。
息を呑んで、ただただみつめるだけの、私。
ロパートキナは「シェラザード」でも素晴らしかった。
大仰なことは何もしない。
でも体中から気持ちが滲み出る。
そして体の使い方が完璧。そう、一つとして疵がない。
そういうバレエをする。
踊るときも、たたずむときも、腰掛けるときも、
すべてが完璧。
一人よがりでもない。
相手役とのシンクロがまたすごい。
音楽ともぴったり合っている。
100回やったら、100回同じに踊れる人なんだ。
本当に、彼女のバレエを思い出すとき不思議と
ジャンプとかピルエットとか、そういう大技ってやったのかどうかさえ忘れちゃう。
そうじゃなくて、あの瞳とか、
ゆっくり後ろを向くときの背中の辺りとか、
そよと吹いたかすかな風にたなびいたかのごとき腕の動きとか、
そんなものを回想しては至福を味わう。
魔力を持ったダンサーだ。
他のダンサーでは、
サラファーノフがすごかった。
男性では一番目を引いた。
「タランテラ」を楽しげに踊る。
たくさん技巧を凝らしているけれど、大変さを見せず、
観客に楽しんでもらおうとする余裕が私は好きだ。
ヴィショーノワは、華のある、美しいダンサーだった。
ただ演目が「シンデレラ」。
私、どうもこの「シンデレラ」がダメ。
あの音楽が(ロミジュリは大丈夫なのに、なぜか)胸をざわつかせて
ちっともバレエを楽しめないの。
ほかの演目で見たかった。
時間とお金に余裕があれば、次の日のガラも行ったんだけど。
ヴィショーノワのシェラザードも見たかったな~。
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