私の中の「ボリショイ祭り」最終日が終わりました。
ラストは「明るい小川」。
1930年代にショスタコービッチが作ったのですが、
時の権力者・スターリンのおぼえにあずかれず、
上演されなくなったものを再現したものです。
ショスタコービッチが最初に作った「黄金時代」という
サッカーを題材としたバレエも、
1回上演されただけで上演禁止となってしまったとのこと。
3作目の「明るい小川」も認められず、
ショスタコービッチは以来バレエの作曲を一切しなかったといいます。
「彼の曲はとても踊りやすい。
ずっと作曲していれば、プロコフィエフやチャイコフスキーのような
大バレエ作曲家になっていたでしょう」
今回、上演にさきだってプレトークに現れたラトマンスキーが
彼の才能を非常に惜しんでいました。
初演から70年、自分がこの演目をよみがえらせたことを
非常に誇りに思っている様子がうかがえました。
「スターリンのために失脚した作曲家」を堂々と擁護できる時代。
なんだかんだいって、
ロシアはずいぶん自由になったんでしょうね。
(この夜は、来日中のロシア政府要人が観客席に。ごあいさつもありました)
しかし、
スターリンさん、
このバレエのどこがお気に召さなかったのかしらん。
最初はソ連国旗のトレードマークの鎌と鎚の合せ紋章が
これでもか、とでっかく描かれた幕を見せられるところから始まり、
舞台背景は黄金の収穫期。麦秋の畑一面。
コルホーズとおぼされる農村を舞台としたバレエで、
ソヴィエト時代にソヴィエト時代の生活を描いています。
明るい色のワンピースで頭にスカーフをまいた娘さんたちは、
ソヴィエト時代のニュース映像をほうふつとさせます。
婚約者がいながら
都会から来たバレリーナにひとめ惚れしちゃった農家の青年。
バレリーナに言い寄る、言い寄る!
婚約者とバレリーナが偶然幼な馴染だったことから
「ちょっとお灸をすえてあげましょう!」と
とりかえばや物語を繰り広げるコメディです。
コサックが出てくるとか、
そういうのがよくなかったんでしょうかね。
恋愛なんかせずに、ハタラケ!ということでしょうか。
収穫の場面もあったのになー。
わからん。
すじ自体がどうこうということはないのですが、
ボリショイのダンサーたちの実力があますところなく披露され、
どの場面も非常に楽しめる上質な笑いのひとときを作っていました。
ひとめ惚れ青年にメルクーリエフ、
その婚約者がクリサノワ。
バレリーナはアレクサンドロワ、
そのパートナーはフィーリン。
この4人は珠玉。
特にアレクサンドロワとフィーリンのパートナーリングは、
ああ、やっぱりこの二人で「ドンキ」も「白鳥」も見たかった~と
思わせるだけのものがありました。
退団後にもかかわらず、この演目だけには出演してくれた
フィーリンは、
二幕ではチュチュをきて(シルフィード)トゥシューズをはいて。
フィーリンも、音をさせずに跳ぶから、びっくりですよ。
まあ、グランディーヴァバレエ団、みたいな感じで沸かせます。
アレクサンドロワも、男装で踊るところがあり、
これも見事でした。
それから、
アコーデオン弾きをやったサーヴィン!
「ドンキ」でガマーシュをやり
私の目をくぎ付けにしたあの「役者」です。
ガマーシュではほとんど踊らなかったのですが、
やはりあの「身のこなし」はタダモノではなかった!
今回もコミカルな役柄であるアコーデオン弾き。
メリハリのある演技、そして切れのあるダンスで、
この日もたくさん拍手を浴びていました。
彼が主役をやる日には、かけつけたい!と思うくらいファンになりました。
今回、ボリショイバレエを3演目すべて観て、
本当によかった。
特に「白鳥の湖」は、
今まで一度も観たことはなかったにもかかわらず、
自分の中にある「白鳥」の原型に出会った思いがしました。
世界で初めて「白鳥の湖」を上演したのはボリショイだったといいます。
世界のバレエのDNAが、私の中にあったのか??
グレゴローヴィチ版は定番とはかなり違いますが、
いわゆる「白いバレエ」のところだけはどの版であってもほとんど同じ。
あそこにこのバレエのすべてが凝縮されているということを、
今回改めて実感しました。
私に「ロシア」へといざなってくれた
マリーヤ・アレクサンドロワに感謝です。
来年はマイリンスキーがくる予定。
ロパートキナは、やっぱり見ておかないと…。
今から、そんなことを考えています。
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