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「Proust(プルースト)」@パリオペラ座

ローラン・プティがプルーストの「失われた時を求めて」を題材に振付けたバレエがあることは
昔から知っていたけど、
「あの大作をバレエにするなんて、できるのだろうか?」という気持ちと、
私がこれを知ってから先、
いくつかのパ・ド・ドゥが単独で上演されることはあっても
全幕というのはなかなか見る機会がなく、
「全体を見て判断したい」という気持ちが先に立って、一度も何にも触れたことなく現在に至る。
思い入れの強い作品の映画化・バレエ化・舞台化というものには
「そうじゃない!」という気持ちが強くなりがち。
これまでに2度ほど映画化されたものの、私の中の琴線には、まったく響かなかった。
そこで、今回のパリ・オペラ座の「Proust」。
Dolce Vitaさんのブログで紹介されていたのを読んだら、
どうしても、どうしても買いたくなってamazonでお買い物。
先日、ようやく到着したので観てみると・・・。
ドンピシャ。
素晴らしい、のひと言に尽きる。
「Tableau」(絵)という名前がつけられた13の場面。
社交界、音楽のエピソード、サンザシのエピソード、花咲く海辺の少女たち、
戯れの同性愛、魂の同性愛、暴力の同性愛、
届かない想いを「眠れる少女」との対話に置き換えたパ・ド・ドゥ、
神々しい若さと迫り来る老いとの絶望的な対比、
一人の男が死を前にして思い巡らす、走馬灯のような過去と「鬼籍」の仲間たち。
あれは、この文章だ、あの場面だ・・・。
試しに本のどこかをパッと開いてみたら、
一つのバレエが紡ぎだされてきた、そんなマジック。
絶妙な音楽選択と、
簡易ながら考え抜かれた舞台装置とダンサーが織りなす美術で、
どの瞬間を切り取っても、本当の絵画のように美しい。
特に5場の「花咲く少女たち」の海辺の冒頭と、
7場の「囚われの女」として有名な、
眠るアルベルチーヌと若きマルセルとのパ・ド・ドゥの幕切れは、
あまりの美しさに一瞬時が止まるほど。
その2つを見るだけでも価値がある、とさえ思える。
そして、何よりオペラ座のダンサーたちが、神がかり的に素晴らしい。
難しい振付だ。
バレエは素人なので、どこがどう高度かを説明することはできないが、
とにかく一流のダンサーたちが、
自分たちの持てる身体能力のすべてを総動員して踊っていることが
そこかしこから伝わってくる。
よく「ポジションが甘い」とか「正確」とかいう評があるけれど、
まさしく、寸分の狂いのない形を提供するために、
これ以上ないプロポーションのダンサーたちが全身全霊でパフォーマンスに臨んでいる。
エルヴェ・モローのマルセル(プルースト)、
マチュー・ガニオのサン・ルー、
ステファン・ブリオンのモレル・・・。
古代ギリシャの遺跡から掘り出された、大理石の像のような完全美。
エレオノーラ・アバニャートのアルベルチーヌも、静と動、直線と曲線を自在に操り、
妖精のようなオーラを発する。
そして、マニュエル・ルグリのシャルリュス男爵!
他のダンサーが完璧な美を意識して踊っているとしたら、
彼だけは、日常のすべての動作や心情を「バレエ化」して演じている。
完全に音楽を理解し、音楽と一体化して、
床に転がるときも、一歩かけよるときも、荒くれ男になぶられるときも、
いかなる自然な所作も、ルグリの体を通過すると、すべてが「バレエ」に翻訳されて出てくるのだ。
ともすれば滑稽さまで表す振り付けを切れのあるテクニックで鋭くこなし、
一人演劇人のように存在感のある狂言回しをするルグリ。
これ以上の配役は考えられないのではないか、と思えるほどの布陣である。
きっと技術的なことだけではないだろう。
フランス・パリが蓄積してきた隠微でスノッブで、そして華やかな文化が
彼らの表情や仕草の中に体現されている。
しかし、それにつけてもローラン・プティはすごい。
何たる独創性!
どこにもない世界を構築しながらも、一つひとつのパートはクラシックの基礎に支えられている。
オペラ座が守り続ける完璧なクラシックの技術の積み重ねによって、
モダンかつ貴族的なプルースチアン・ワールドを
世紀末の香り漂わせながらも、未来に広がりを持たせるような時の流れを
私たちの目の前に示してくれているのだ。
幸せ者だよね、彼も。
自分の頭の中にあるもっとも美しいものを、
オペラ座の、本当に美しく、そしてテクニックのあるダンサーたちを使って表現できるんだから。
二晩続けて見ました。
飽きません。

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