夜の部の前半は、勘平の菊五郎が主役です。
菊五郎はいい声だし、安心して見ていられるけど、
私は平成中村座で見た勘太郎の勘平が、五・六段目を見た初めてなので、
その印象というのがかなり強く残っています。
勘太郎の勘平は、
自分が舅を撃ち殺してしまったと思い込んだそのときから、
憔悴しきっていき本当に「いい人が魔がさした」感じがしたんですが、
それに比べると菊五郎の勘平は、
けっこうワルい人に思えましたね~。
不破と千崎が来たときに、
姑のおかやが言い立てようとするところを、
口ふさいで止めて、「なんでもない」ととりなして、
舅殺しておいて「なんでもない」って、
おかや、逆上するの、わかります!
筋書きに
「もし不破と千崎が来なかったら、邪魔なおかやを殺していたかも知れません」
という勘平像を作ったと菊五郎が書いていたけど、
私も観ていてそんな感じがしました。
昼の部の「道行」のときから、
菊五郎はしでかしてしまった失態と心中しているから、
お軽の実家での百姓暮らしは本当に不本意なんだな。
そういううらみが、菊五郎に陰を作っているのだと思う。
この段では、おかやを演じた東蔵がすごくよかった。
彼女が早合点して勘平が自分の夫を殺したと騒いだために、
悲劇が起こるキーパーソン。
勘平の挙動不審を察知して追い込んでいくところは、
感情的というより論理的だったし、
愛するお軽を遊女に出さねばならないとか、
母として、妻として、いろいろ我慢に我慢を重ねて婿殿と折り合いつけていたけど、
ここで爆発したっていう感じがよく出ていた。
顔に太ーくシワ書いてあって、
パッと見喜劇役者?コントやるの?っていういでたちなんだけど、
全然笑う気にさせない。
ほんとにシリアスに、リアルに、心情が浮き彫りになる。
セリフの口あともいいし、すごい役者さんだなー、と思った。
討入りの場面では、
高師直の家の門前でお約束の陣太鼓を鳴らしたと思ったら暗転、
次に明るくなったら雪のつもった庭での立ち回りっていう
この舞台転換がすごかった。
テレビとか映画顔負け。
池にかかった橋の上などでの立ち回りを見ながら、
ああ、私はこの場面を何度も何度も見ているな、と思った。
歌舞伎では初めてだけど、
忠臣蔵って、テレビや映画で何度も見ているのよね。
どれもこれも、この舞台のしつらえから始まったのかと思うと、
なんか感無量でした。
ここでは竹森喜多八の錦之助と、小林平八郎の歌昇の殺陣が
はんぱなく迫力ありました。
歌舞伎の殺陣というのは、舞の型をなぞって想像させる
ゆっくりしたものが多いのですが、
(それでもうまい人がやると、迫力がある)
ここは千葉真一と真田広之もビックリっていうくらいリアル。
とにかくスピードがあって、
刀の振り回し方も殺気立ち、
よくケガもせずあんな接近戦ができるな、と感心してしまった。
高師直発見からはちょっと早回しで落ち着かなかったけれど、
最後真っ青な空の下、太鼓橋の奥から浪士たちがやってきて、
その橋の上にひな壇のように座すところは、
やっぱり壮観。
その後隊列を組んで花道からはけるという演出って、
ちょっとしたカーテンコールだなー、と思った。
映画などでも、沿道に出た人々が、
口々に「よくやった」とかいいながら浪士たちを見送る場面があるけれど、
江戸の小屋の花道近くの観客たちは
自分がそんな役になったと思い込めて快感だったんじゃないかしら。
私も、堪能させていただきました。
ありがとうございます。
*菊五郎の勘平が切腹した場面を見てすぐの休憩で、
目を真っ赤に泣き腫らしてハンカチで顔を拭く青年がいました。
すごい感受性です。
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