至芸、という言葉がある。
まさに、至芸だ、と思いながら、
大スクリーンに大写しになる玉三郎と勘三郎を見ていた。
冒頭の、川の渡しの近くで所在なさげに一歩、二歩とそぞろ歩く、
その足の出し方だけで魅せる玉三郎。
身投げしたのを助けられて、助けられたってこれからどうするあてもない、
その絶望と奈落を、ちょっとした台詞のトーンだけでわからせる。
涙も見せず、訴えもしない女のその横顔を見ただけで、
目頭がじーんと熱くなる。
そんな、万に一つの希望も持ち得なかった女・お仲が、
助けられた男に生まれて初めて惚れたというのに、
病にかかって長くない。
「わたし、生きたい……」
拾った命が幸せをつかもうとしているのに、哀れ。涙が出る。
自分の生きた証に、と、想い人の腕に刺青を入れるお仲。
何の台詞もなく、ただひたすら刺青を彫るシーンが続く。
なんというリアリティ!
刺青を入れる玉三郎の手つきの写実性と、
彫られる勘三郎が時折眉を上げ下げしたり、歯を食いしばったりして痛さに耐える、
その表情がまた見事。
この二人の演技にどこまでも吸い寄せられる。
まことに、歌舞伎とは練りに練られた芝居だ。
様々な名人たちが入れ替わり立ち代り再演することで、
芸はますます濃く、深く、心のひだに染み入ってくる。
ゆっくりとした台詞回しの中に、すべてがこめられている。
計算しつくされた舞台装置と小道具は、
人の配置さえ完璧で、
書割りとわかっていても、土手の向こうには空と川面が広がって感じられる。
「刺青奇偶(いれずみちょうはん)」は
東銀座、歌舞伎座近くの東劇で、4月3日まで。
ぜひ。
ぜひぜひご覧ください!
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