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「化けて出てこい!」と野田秀樹は言った@中村勘三郎本葬

「あなたはせっかちで、エレベーターのドアが開くのも待てず、
 ドアをこじあけようとしていたところを見たことがあります」
勘三郎の、そんな姿、想像できてしまいます。
本当に、生き急ぎ、あっという間に向こうに行ってしまいましたね。
「安らかになんか眠ってほしくない。このへんをウロウロしていてほしい」
「化けて出てきてくれ」
と、野田秀樹は言いました。
「のこった方が、先にいった方の葬儀委員長になる」
そう約束した勘三郎と野田秀樹でした。
そうはいっても、やっぱり委員長は松竹のお方になってしまいましたけれど、
野田さんも、委員の一人にはなっておりました。
「化けて出てこい!」というのは、
彼がつくった戯曲「パンドラの鐘」の最後のセリフです。
誇り高き女王であったヒメ女が
自らを戴くクニを守るため、そのすべてを一身に引き受け死んでいったとき、
その女王を一人の女として愛した男、ミズヲが
彼女の生きざま、死にざまを見守り、支えながらも、
血を吐く思いで魂から絞り出した叫び。
「化けて出てこい!」
書いた野田秀樹も、ヒメ女を演じた大竹しのぶも、築地本願寺にいて
こんなコトバを、こんなに早く、勘三郎に弔辞で発するなんて、
誰も思いもしないことでした。
どんな形でもいいから、そばにいたい。そばにいてほしい。
それが、
勘三郎を愛するすべての人たちの願いです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三津五郎さんの弔辞も身に染みました。
「肉体の芸って、つらいね」
三津五郎さんのいまだ若々しい声を聴きながら、
同い年の勘三郎さんの、あの肉体がもうこの世にないことが不可思議でなりません。
若き二人が踊った「棒しばり」、私が初めて「すごい」と思った歌舞伎舞台です。
何も知らない私でも惹きつけられました。今でも忘れられません。
それにしても…。
テレビのコメンテーターが勘九郎・七之助に対して
「(勘三郎さんのように)新しい歌舞伎をめざしてほしい」とかエールを送っていましたが、
そりゃちがうでしょ。
12000人の人々がお弔いの列をつくり、
行けなかった人も含めたくさんの人が彼の死を悼んだのは、
「新しい歌舞伎をやったから」なんて単純なもんじゃないよ。
奇しくも三津五郎さんが言っている。
「君は交友関係も広く、活動の場も広かったから、
 さまざまな人の心に、さまざまな思いを残したと思うけど、
 僕は50年間一緒に芸を勉強し続けた友人として、
 不屈の信念で体に宿った魂、 人の何倍もの努力によって培った芸のすごみで、
 誰にもマネのできぬ芸の境地に立った歌舞伎役者だったことを、伝え続けたいと思います」
ま、勘三郎が好きな人は、みんなわかってるけどね。
「のりちゃん、君はすごいです。僕は負けました」
仁左衛門さんが高らかにおっしゃった。
仁左衛門さんと勘三郎さんの「沼津」も、もうあれが最後なんだな~。
娘役の孝太郎さんを抱きしめながら、
「ええわい、ええわい…」とつぶやいた勘三郎さんの顔、声…。
思い出しただけで涙がこぼれます。
つらい、つらい、年の瀬になりました。
合掌
(追記)
いつまでアップされつづけるかわかりませんが、
みなさんの弔辞全文がアップされていますので、はりつけておきます。

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