染五郎の与兵衛は、なかなかいい!
いつもいうことだけれど、
染五郎は、二枚目半のキャラクターが洒脱でよく似合う。
だから前半の、無責任で愚かしくて、でも憎めない、
いわば育ちのよいチンピラみたいな感じはとてもよく出ていた。
惜しむらくは「陽」が輝いた分、
「陰」に深みがなかった。
情人でもない人妻に「疑われるならいっそ不義になって金を貸してくれ」という
ある意味「何言ってんのコイツ?」っていう屁理屈に
本来ならばヘビのようなおぞましさが感じられなければならない。
油まみれで葛藤するところも、
まだ「せーの」「よいしょ」で合わせる感じで、緊迫感がない。
片岡仁左衛門はこの与兵衛という役を
「若いなら若いなりに、勢いで演じられる」とは言っていたが、
いやいや、やはり練りに練られた人物造形であってこそ、
その「勢い」や「若さ」が生きるというもの。
借りてきたものでは到底出せない味なのだと思い知る。
亀治郎のお吉も、「27歳、二人の子持ち、二人目を産んだばかり」という役どころの難しさを感じた。
孝太郎のときは、彼女はほんとに被害者というか
何も悪いことはしていないのに、ただの親切心で、
このシチュエーションだったらもしかしたら私だって巻き込まれそう、という感じなのだが、
亀治郎だと、お吉の立ち位置が微妙にずれる。
女性のフェロモンが出まくりだ。
それは、演出プランなのかもしれないけれど、悲劇性は薄まる。
これってほんとに難しいね。
レイプされた人が肌むき出しの服装していたかとか、
お酒飲んでへべれけだったとかだと、
「スキがあった」「その気にさせたお前が悪い」と、そういう話になるでしょ?
ひどいことされたのに、前面的に彼女の側に立たない人が多くなる。
人間は、女性の色気にシビアなんだとつくづく思う。
お吉だって、主人のいないときに金貸せと言われて断って殺されるってほんとにひどい。
それなのに、
「なんで金があるとか言っちゃうの?」とか、ダメだししようとする私。
自分からして、このシビアさは何だ?
私はルテアトル銀座で、お吉に感情移入できなかった、ということだ。
このお話は、
夫が妻の親切心に嫉妬する場面も描いているのだから、
あまり色気が過ぎては違う話になってしまわないだろうか。
(亭主役の門之助が好演。つまらない嫉妬も、殺された後の狂乱で深い愛情の発露とわかる)
私は孝太郎が見せた、
「善人としての普通のやさしさと、良妻としての当然のブレーキ」が
その博愛と常識ゆえにとんでもない災難に巻き込まれる、という女性の悲劇に
非常に感服したのである。
これから20年30年、この役を二人が演じ続けたとき、
どんな油地獄が出現するのか、
それを楽しみにしたいと思う。
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