これって歌舞伎????
…と、目を疑うような舞台だった。
野田秀樹の「砥辰」とか、
蜷川シェイクスピアの「十二夜」なんかの比ではない。
どちらかっていうと、
三島由紀夫と美輪明宏の「黒蜥蜴」の世界である。
衣装も着物の人はほとんどいなくて、
玉三郎はきらきらを織り込んだ純白のドレスだし、
海老蔵に至っては、
黒のタイツスーツに無数のビーズが縫いこまれてあって、
その上からマントを羽織り、
ほとんど「白鳥の湖」のジークフリート。
しゃべり方も歌舞伎調ではない。
海の底の宮殿と海の中のお話で、
内容的には、
ジャン・コクトーの「美女と野獣」に似た感じ。
自分の価値観をちゃんと持て、ということとか、
本当の美しさに気づくのは芸術家だけだ、とか、
いろいろ含蓄のあるセリフが続きます。
だけどだけど、
前から3列目、ほぼ中央の席で見た私は、
とにかく海老蔵の美しさにもうメロメロだったのでありました。
眉目秀麗って、こういうこというのかしらん。
いろんな女性が次々と海老蔵の虜になった理由がわかった。
この人、
ほんっとに美形だわ。
ぱっちりとしてかつ切れ長の目、
日本人離れした高くてとがった鼻、
そしてそして、
声がいいのよ。
それも、「いい人」っぽく語るときの声が抜群。
最近、「Mr.Brain」で不良刑事役をやりキムタクと共演していますが、
ああいう投げやりなワルっぽい発声でなく。
「うん、僕もそうじゃないかと思った!」みたいな、
快活で優しくて、素直な役としてセリフを語ると、
もう「いい人だ~~~~!!!!!」
あの目で見つめられて、間近で告白されたら、
何歳になってもどんな女性でも、自分は愛されていると思う!
コロリとだまされるな、これは。
私の隣の女性二人も
「絶対目が合ったわ!」
「そうそう! こっちを見て言ったよね!」
「…みんな、そう思ってたりして!」
などと、話しておりました。
そう、みんなそう思ってますよ、きっと(笑)。
単にカッコいいとか、声がいい、ということだけでなく、
さきほども書いた鏡花の芸術論的なものを、
しっかりと観客に理解させるセリフまわしをしていたし、
愛する美女(玉三郎)に
「もうあなたは人間ではない、人間には白蛇にしか見えない」ということを
告げねばならなくなった苦悩もよく表れていた。
セリフに色がある。
セリフとセリフの間の表情の変化が鮮やか。
そして、
舞台映えがする。
もちろんしつらえが地味とか派手とかもあるけれど、
同じ昼の舞台の「五重塔」では
昨日書いたように勘太郎と獅堂で舞台を持たせるのは厳しいものがあった。
それに比べて海老蔵は、
玉三郎を相手に一つも見劣りせず、
中央に君臨して劇場を支配する力を持っていた。
特に最後、
玉三郎扮する美女が処刑される寸前
海老蔵に向って言う
「初めてお顔を間近で見た、美しく、高貴で…」のセリフが
ウソに聞こえないのだからあっぱれである。
惜しむらくは、
やはり歌舞伎調のしゃべりで高音域になると声がこもる。
ただそれは、父親譲りであるとも聞いた。
今は押しも押されぬ團十郎も
若いときは声がこもると批判され、
菊五郎と比較されていたというのだ。
まだまだこれから花開く。
その持って生れた天賦の容貌を以って、
いよいよ精進してもらいたい。
*こんなに舞台映えして、こんなに声が鮮やかなら、
「ドラクル」を見ておくべきだった、と後悔至極。
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