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コクーン歌舞伎「盟三五大切」@シアターコクーン

三五郎(実は千太郎)に勘太郎、
小万(実はお六)に菊之助、
源五兵衛(実は不破数右衛門)に橋之助。
小万の菊之助が素晴らしい。
妻を苦界に沈めても親の勘当を解いてもらいたい、という
身勝手な夫三五郎に対する、ひたむきな愛。
だから源五兵衛を簡単に手玉にとってだますのにも加担する。
でも、本当は、いい女、なのである。
その矛盾をはらんだ人物造形ができている。
特に、
源五兵衛に斬られる場面が秀逸。
さすが、踊りの名手である。
どの角度に身体を、顔を、手を、足をねじれば客から美しく見えるか、
すべてわかってやっている。
それでいてわざとらしさがない。流れるが如し。
スピード感のあるところ、スローモーションのところ、
ストップモーションのところ……。
対する源五兵衛。
もう、サド丸出しである。
そういう源五兵衛なんだな、
ぶち切れ源五兵衛としての説得力はここで確立された。
ただ、
なんか、ただの殺人鬼にしか見えなかったのがちょっと不満である。
小万をいたぶって刺しまくるといえど、
そこに小万に対する愛が感じられなかった。
ただ憎しみだけ。
憎しみの発露、だけ。
だまされて憎いのではなく、
「あの愛は偽りだったのか、あんなに睦みあったのに」の哀愁が、ない。
なぶり殺しながら、
その刃の痕ににじり寄りからみつくほどの情愛が感じられた
仁左衛門の源五兵衛に比べると、
いかにも源五兵衛は小者になりさがってしまっている。
小万に対する情念も薄く、
武士としての面目に対する執着も淡白。
ただ「おちょくりやがって」だけで暴れている様子だ。
首を斬るところも、
スパッと斬り飛ばしてしまっているけれど、
どうなんだろうか。
ゴリゴリ、ゴリゴリ、…と顔見ながら斬るあのおぞましさにこそ、
愛憎ないまぜの哀しい殺意が満ちるのだと思うのだけれど。
殺人者、それもとばっちりの犠牲者も含めての大量殺人を犯した者に
感情移入するっていうのはそれ相応の説得力が必要だな。
(…これって、私が自分の戯曲の講評で言われたことだ、と、はたと気づきました)
勘太郎は、すごいこすっからいちんぴらな部分と、
自分の身内にだけはものすごく手厚いところと、
この二つが同居している人物を矛盾なく演じていた。
かつては何をやっても「いい人」臭が抜けなかった勘太郎が
最近は何をやっても「悪い人」に見えるから不思議。
ただ、
魅力的な三五だったか、といわれると、こちらもちょっと小粒だったか。
最後腹を切るところなぞは、やっぱり武士の世界に憧れる部分もあろう、
そういう、夢を追いかけているちんぴらの憧憬のようなものが伝わりきらない。
まだまだ「形」から入っている段階で、
立ち上るような三五の魅力に欠けていた。
声がしゃがれ気味だったのも気になる。
私にとっては、
かつて見た亀治郎の小万と小船で睦み合う菊之助の三五が
初見であったこともあり、かなりインパクトがあった。
(2009年11月新橋演舞場の花形歌舞伎。源五兵衛は染五郎)
この三五のためなら、小万も苦界にでも何でも売られていこうというもの。
かつての松禄の、匂い立つような三五というのも、見てみたかったと思う。
さて、
今回の弥三郎は、国生。
橋之助家の国生、宗生についてはいろいろ思うところあり。
今回はかなり重要な役を任され、もはや子役では通らない。
コクーン歌舞伎だから許された部分もあろうけれど、
一生懸命やっていたところに好感が持てた。
松竹座で見た薪車の弥三郎が素晴らしかったとはいえ、
それと比べようとは思わない。
演技に深みを期待しても、それはこの年齢には難しかろう。
しかし舌がまわらなくなるところが多々あって、ここは精進を望むところ。
串田和美の演出で光ったのは、
冒頭の船の行き交うところ。
靄の中から源五兵衛の船が登場するところは、なかなか工夫があった。
ただ、
音楽に洋楽とお囃子とが交じり合うのが違和感。
洋楽である理由がないと思った。
内容的に、ことさら何か洋風にした部分はなかったし、
その洋楽が流れることで、観客の理解や想像力が増した感もなかった。
逆に暗い洋楽、はしゃぐお囃子、と不要なコントラストができてしまって、
「ここでこんなお囃子、いる?」みたいな邦楽への違和感まで。
かなりオーソドックスな演出だったので、
真っ向正攻法で臨んでもよかったのでは、と思いました。

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