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シネマ歌舞伎「京鹿子娘二人道成寺」

銀座シネスイッチで本日から始まった「シネマ歌舞伎」。
3週間で3本を見せる企画ですが、
第一週は「京鹿子娘二人成寺」と「野田版鼠小僧」の2本です。
「京鹿子娘二人道成寺」は、玉三郎と菊之助の華麗な舞が、
とびきりの画質で見られる(それも1000円で)オトクな1時間です。
いわゆる「安珍・清姫」の道成寺の話は、
安珍が隠れた鐘に清姫は蛇となって取りつき、鐘もろとも想い人を焼き殺してしまって終わりなんですが、
その後日談として書かれた能芝居が、今回の舞台のベースになっています。
前の鐘に替わり、新しく鐘を建立し、今日はその供養だという日に、白拍子・花子が現れる。
舞を舞うなら、という条件で寺に入る花子。
しかし彼女は清姫の怨霊だった!   …という筋立て。
「舞を舞うなら入ってよし」という坊主たちのスケベ根性というか
美人に弱い男のサガというか、
その程度のモノで始まっちゃうわけですから、
お話自体に「感動」しようという舞台ではありません。
この「舞」そのものが、舞台のキモなのであります。
白拍子の花子と桜子二人に舞わせるのが「京鹿子娘二人道成寺」の基本パターン。
そこを玉三郎は、もうひとひねり、
「花子の二面性を二人に分けて踊らせる」という仕掛けにしました。
だから、玉三郎と菊之助は、
あるときは二人重なるようにして出てきます。
まるで細胞分裂の瞬間のように、一つのシルエットから二人が出てくる時が見事です。
その後も双子星のように、離れては近づきを繰り返します。
ぴったりしたユニゾンの美しさに、惚れ惚れします。
菊之助は、とにかく美しい。
体の運びに切れがあります。
特に下半身の強さと体のしなり、スピード感には伸び盛りの意志を感じます。
かたや、玉三郎。
菊之助に遅れて花道からせり上がってきたときは、
さすがに大画面のどアップですから、歳は争えません。
やっぱり若さには勝てないのねー、と思っていたら、そこからです。
眼力。
鐘の方を見上げたその瞬間、玉三郎の表情に怨念が宿ります。
恐ろしい殺気。
となりの菊之助は自分のしなや作りの完璧さの方に気がいっている感じ。
美しいけど、人形なんです。
玉三郎がふと菊之助の顔を見やるとき、そこには姉が妹を慈しむ優しさがにじみ出る。
手毬で遊ぶときは、幼女の無邪気さ。
手ぬぐいの先を片手で持って、ひょい、ひょい、と前に投げるときは、
想い人のつれなさに、いけずを訴えるような目つき。
そして、最後に鐘の上によじ登って見栄を切る寸前、
身を焦がすような安珍との恋路をはるかに思い出すような陶酔の表情、
絶望の淵で咲く一輪の花のような美しさ、はかなさ、いじらしさ…。
それが一瞬で般若の形相に立ち代り、僧たちを上から睨みつける!
この人は、舞っているだけじゃない、演じているんだ!
そんなことを思いつつ、帰りに寄った本屋で「ダンスマガジン」の3月号を見たところ、
高岸直樹(東京バレエ団プリンシパル)と三浦雅士(ダンスマガジン編集長)の対談がありました。

DANCE MAGAZINE (ダンスマガジン) 2008年 03月号 [雑誌]
その中に、高岸がノイマイヤーの作品「月に寄せる」を踊っている公演中に、
玉三郎にけいこをつけてもらったことが書いてあったのです。
(踊っている高岸と斎藤友佳理の)目の表情がそれぞれ違ったらもっと素敵なんじゃないか
といって、文化会館の部屋を借りて30分くらい指導してくれたのだけれど、
「自分ではできるけど、人におしえるのは難しい」と。
それで、一、二、三で
一は自分を見ている、
二は人を見ている、
三は遠くを見て何かを思い出している
、というトレーニングをさせられた、
という話でした。
そのくだりを読みながら、
今日観た映像の中の玉三郎を思い起こさずにはいられませんでした。
「京鹿子娘二人道成寺」は、
美術という点でも最高級の舞台です。
「鐘の供養」というおめでたい日だから紅白の幕、
その前に、ラインダンスのように並ぶ坊主たちの白と黒の法衣。
舞が始まると、後ろは満開の桜の山。
お囃子の人々は、黒の紋付に桜色地に桜の花の模様の裃と袴を着けて、
背景の中にほどよく溶け込んでいます。
二人の舞姫は、最高級の振袖を色彩豊かに着替えながら、
ある時は一人で、ある時は二人で、舞い続ける…。
贅沢の上に贅を尽くした、美の世界でした。

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